ぺり。甘いものが好きと云う点では女子にも負けずとも劣らない男子高校生であることは疾うに自覚しているが、新たに最近気付いた事は、実際に食している時と同じくらいにこの封を空ける瞬間が好きだということだ。数有るスイーツと呼ばれる何とも魅惑的な、お洒落に着飾った糖分の塊の中から、悩み抜いて選んだ自分的お気に入りのそれは少なからず愛着に似たものがある。だからこそ、予定を決めて冷蔵庫に眠らせておいた其をろくに考えもせずに胃に収めた家族という仮面を被った鬼が現れた日には、たかが菓子、然れど菓子、声を荒げてしまうのは仕方無い事であると此処に明確に主張しておきたい、まる。
水谷と仲良くなり始めたのもそれが切っ掛けだった気がする。コンビニのスイーツやら近所のケーキ屋の新作やら、お互いの収集した情報を共有し合ったらあとはもう残された道は一つしかない訳で。部活が少し早く終わる日を見付けては億劫がる理由も無く出向いたものだ。ケーキバイキングに行った時もあったっけな。流石に男二人で恥ずかしいと躊躇しているおれなんて気にも留めず、水谷は上機嫌でおれの腕を引いていた。そして友達と云う枠から溢れている今でもその関係は何ら変わっていない。現に、今日だって部活帰りのコンビニで購入したのはお互いに勧め合った甘味。おれから水谷へはカスタードプリンエクレア・期間限定カラメルソース入り、水谷からおれへは生クリームたっぷりシュークリーム(今だけクリーム増量中)を。如何にも水谷が好きそうだなあ、なんて微笑ってしまった。さて、封も開けた事だ、食べるぞ、と口を開けた時。横からの視線に行為を阻まれた。いや、そんなににこにことされても。なに、と問うても返って来るのは曖昧な返事と緩みきった表情だけ。クエスチョンマークを浮かべながら、まあいいかとシュークリームに噛り付いた。仄かに甘くて何処か芳ばしい柔らかいシュー生地の中からは冷たくて舌触りの良い甘い甘い生クリームが溢れてきた。流石増量中、生地の割合に対して明らかに多いクリームは口から少しはみ出てしまった。親指でそのクリームを拭い舐めていると、シュークリームってさあ、不意に水谷の声。

「栄口に似てるよね」

はあ?おれの、何処が?訳もタイミングも分からない水谷の呟きにぽかんとする。そんなおれの顔を見て相変わらずの緩み顔。此方は何の事かさっぱりなのに、勝手に人を菓子に似てると言い一人満足そうにされても面白くないので説明を求めると、唸る事も考える素振りすら見せずに答えた。

「だってさ、皆が好きで両方ふわふわして優しくてー、でも甘過ぎない感じ?だし。そんでもっておれの大好物っ」
「…なにそれ」

ふいと顔をシュークリームに向け直す。おれとこいつが似てるって、それじゃあ水谷には此の状況は鏡に向かい合ってるとでも見えているのだろうか、先程の行為は共食いとでも言いたいのだろうか。まず大好物というワードは食べ物に対して言うのではないか。水谷に食べられる覚えなんて………ぎゃっ何考えてんだおれ!…もしかしておれ遊ばれてる?目の前の笑顔がもう少し胡散臭かったらそう誤解してしまうところだっただろう。しかしながら冒頭に述べた通り女子にも負けずとも劣らない男子高校生と言えど、そっかあ似てるんだあ嬉しいなあふふふ等と受け入れてしまう程乙女でも大人でもないので、それ以上は何も言わずに自分に似ているらしいものに再び齧り付いた。横からの、まぁこっちのが大好きだけどねー、なんて台詞は聞こえない、断じて、聞かない。それなのに、水谷は、このばかは、おれの大好物のカスタードプリンエクレア以下省略を自らの頬横へと持ってきて、へらり。

「ねぇねぇ、栄口はおれとこいつ、どっちが好きー?」
「……言わなくたって分かるでしょ」
「えー?おれバカだからわかんなーい」

ああもう、その声その顔その瞳が甘くてあまくてあますぎて。おれまであっまあまの砂糖漬けにされて溶かされてるんじゃないかと思う。甘いと言ったおれなんかよりもそんなおれに似てると言ったシュークリームなんかよりも期間限定甘さ倍増のエクレアなんかよりも、ずっとずっと甘いのは何よりも誰よりも愛しいひと。ねーえさかえぐちい、ああうるさいうるさいうるさいってば!

「あっまいほう!」

甘い甘い口付けが落とされる三秒前のことでした。





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スイーツみずさか
甘党系男子高生て可愛い



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