青空、放課後、屋上。学生時代の醍醐味であるそういった意味での青春と呼ばれるのに絶好のシチュエーション。此処で可愛らしい女子生徒が後ろに何か隠していれば文句無しのフラグ成立になるのだが、只一つ決定的に残念な事は此の場所にはそんな女子生徒は居らず、男二人だけであるという事だ。俺の腕を引き、斜め前を歩いているのは自分より一回り小さい田島。ホームルームが終わると同時に教室に駆け込んで来て、ちょっと付き合ってと引っ張られるがままに連れてこられたのは屋上。今日はミーティングだし始まるまでまだ時間もあるので、突拍子の無い田島の行動に文句を言いつつもその手を振り払う理由も無かった。
屋上に着くとようやく手を離してくれた。フェンスに寄り掛かる田島と自然と向かい合う形になり、一言の説明も無い一連の行為に対する疑問を改めて口に出した。

「―で、何の用?」

さらりと普通に言った筈の言葉に対してのリアクションは田島らしからぬもので、いつもの様な阿呆らしい程のハッキリとした答えが聞けないどころか、うーだのんーだのと言葉を濁している。何か悪さでもしちまっちゃたんじゃねえのこいつ、うっかり小学生を見守る気持ちになってしまった自分に若干の苦笑。彷徨っていた大きな黒目は覚悟を決めた様にぐっと此方を見詰めてきた。刹那、肩を引き寄せらせ、田島の顔が近付いてくる。触れていた一秒にも満たない僅かな瞬間、時が止まった。それにも関わらず、瞳を閉じる暇さえ俺には無かった。
呆然と立ち尽くすことで精一杯の俺の顔を見て、十七センチ下からにしっと聞き覚えのある笑い声が聞こえた。

「よっしゃー!花井のちゅーゲットーッ!!」
「ちゅ…っ!?な、た、なななななんで…っ」

漸く脳が追い付いて来て余計に訳が分からなくなる。何でこいつにキスされたんだとか何でこいつは嬉しそうにしているのかだとか元々連れてこられた目的は何だったのかだとか疑問符は増えるばかりで。確かに分かっていることは取り敢えずどうしようもなく熱いということだけだ。
つい先程までの気まずそうな表情は何処へやら、悪戯成功とばかりに笑う顔はなんだか可愛く見えてしまい、ぶんぶんと首を振り自分の安直さを取り払う。色々な意味が含まれた、なんで、という俺の問いに微塵も迷いの色を見せず、当然かの如く答えた。

「だって、花井ってオレんこと好きじゃん」

好き?すき?おれがたじまをスキ?何言ってんだそりゃあ勿論嫌いじゃないよむしろ悔しいくらいに憧れていてでもこいつが言っているのはライクじゃなくてきっと、え、あれ、俺って、もしかして田島のこと、

「オレも花井のことすっげー好きだからさ!それ言おうと思って!」

嬉しい、なんて思ってしまった俺はどうかしているんだろう。そんなことどうでもいいやと思えたのは、丁度この青空の様な田島の笑顔が余りにも清々しかったせいだ。こんな風に思うなんて俺らしくないのは重々承知で、それすらまあいいこと、として片付けられてしまうのは紛れもなくたった今自覚した自分自身のせいであるらしい。
一つ小さく頷けば、ぱあっと一面に花が咲いたかの様な、それはそれは嬉しそうに瞳を輝かせて抱き付いてきた。はないだいすきーっ、何だろうか、不思議と優越感。仕方ねえなと背中にそっと手を回せば又背伸びをしてきたので条件反射で腰を屈め―思い出した。

「つーか順番が違ぇだろうが馬鹿!!!」





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自覚させられた花井くん



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