悴んだ手を見て何故手袋をしないのかと問えば面倒くせーんだもんの一言、語尾や口調に変化があったとしても、このやり取りはもう何年目で何度目の事だろうか。街行く人の必需品として幾つかの防寒具が加わり始めた何て事の無いこの季節が当たり前の顔をして毎年やって来る様に、一年間で一番大切な日も何て事無くやって来るのは必然なのだけれども、そのお陰で寒くて憂鬱なだけの筈のこの時期が案外好きだったりする辺り、自分の中での彼の存在というものはとてもとても大きくて、愛おしくて、暖かくて、何にも代えられないものなんだろうなあと満足気に息を吐くと僅かに白く見えたのには少し感動してしまった。もうそんなに寒いんだ。其に毎年気付くのも丁度この頃。
隣を歩く泉は紺と灰のストライプのマフラーに首を埋めて寒さに不満気な表情。やっぱり手には手袋はまだ無くて。どうせ年明け頃には付けてしまう位の面倒臭さなのだから、さっさと折れて付ければいいのに。言い掛けて、止めた。ポケットへの侵入者に気付いたから。これがあるから強く言えないんだよなあ。全く、泉に対しても自分に対しても、熟甘い。まあ、手袋が無くてもいいか。このポケットを暖めておくのは俺の最大の使命、何時も何時でも泉の横に。

「泉」
「あ?」
「手ー出して」
「…何で」
「はい、左手貸しなさい」

すうっと一筋の銀が細い指に。その尊さと云ったらまるで広いアスファルトにたった一欠片の結晶がたった今、降り落ちた様な、でも、泉のは消えないよ、ずっとずっと。冷たい其と其は思っていた通りぴったりに填まって、思っていた何十倍も美しかった。ぴくんと指が動いて、瞳から真ん丸の雫がぽとぽと、冷えた泉の手に落ちて、俺の手にも落ちて。
ねえ泉、これ見付けた時さ、俺絶対泉に似合うと思ったんだよね、ちゃんと渡すの間に合う様にすっげえバイト頑張ったんだぜー?シフト詰め詰めでさあ、初めてだったかもあんな詰めてもらったの、店長が驚いてたよ、でもこれの為だって思えたら頑張れたんだ、だから、最近会いたいって言えなかったんだ、本当はすっごくすっごく会いたかったよ、泉、喜んでくれた?きゅ。よかった、伝わったよ、握ってくれた手で、全部。だからきっと俺の気持ちも全部伝わったよね。言いたかったことは敢えて口には出さないでおくね。泉に伝わればもう充分だから。

「はま、だ」
「うん」
「あ、りがとう…」

自分より一回り小さい身体を抱き締めると冬の薫りがして、ああ本当に泉は今日生まれたんだ、一生守ってやらなきゃなんて格好付けすぎかもしれないけどせめてこの愛しい冷えた手を暖めるのは誰にも譲りたくないと思った。早くおとなになりたいね。





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いずみきゅんはぴば!

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