「とりっくおあとりぃと!」

部屋に入るや否や、背中に勢い良く抱き付いてきたのは少し驚いたが、たった今背後から聞こえた台詞は十中八九どころか確実に十割いや十二割間違いないと予想していたもので思わず微笑ってしまった。

「はいよ、」

腹に巻き付いている田島の細い腕を解き、取り敢えず座らせると大きな瞳が此方をじいっと見詰めてくる。バッターボックスやベンチで時々浴びる、こいつの射抜く様な視線はどうも苦手だけど、こういう視線なら慣れているし決して嫌いでは無い。むしろ、自分以外にその視線を向けている田島を見る度に胸中が悶々と黒い渦を作り出してしまうのには自嘲してしまう。
スラックスのポケットから出した小さなそれは、蛍光オレンジのアルミホイル素材に黒字でジャックオランタンが描かれている紛れもなくハロウィーン用のチョコレート。昨日妹たちが大袋で買ってきて、半ば強制的に幾つかを持たされたのだ。口に放り込み満足気な田島を見ていると、あの小さな蛍光オレンジが何か凄く貴重な物の様に感じ自分も一つ口に入れたが、やはり何の変哲も無いミルクチョコレートだった。それにしては美味そうに食うなあ。自分が渡した物の筈なのに何だか少し羨ましくて、口内で個体が溶けきった頃、少し意地悪をしてやる。

「Trick or Treat?」
「…え」
「何だよ、」
「だ、だって花井こーゆーのキョーミないかと思って…」

これから叱られる子供かの様に目線を下の方で泳がせて言い訳ぽく唇をもごもごと動かしている。自分は当然言っておいたくせに、まさか俺からの返しは微塵も想像もしてなかったらしい。まあそんなとこだろうとは思ってたけど。俺の冗談に本気で焦る田島は酷く可笑しくて、ぶはっと吹き出してしまう。わりわり冗談だって、言い終わるか言い終わらない内か。

「…いーよ?」
「は、だからじょうだ「イタズラ、していいよ?」」

こ、の野郎。
大きな瞳を潤ませながら上目遣いな今のこいつと云えば、いつもの子供らしさガサツさなんて微塵どころかマイクロミクロ単位すら感じさせない。そこに有るのは、普段からは結び付かないしおらしさと。

「…このバカ」

とてつもない色気を感じてしまうのは惚れた弱味なんでしょうか。何にしても誘われたからには受けて立たなければ仕方無いと都合良く田島のせいにしてしまおう。そう、だって今日は年に一度の悪戯が許される日。
カボチャさん、オバケさん、ええと何と言うべきか、取り敢えずありがとう。





---------------------
誘い受け田島様※ハロウィン仕様でお送りしました



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -