Ω性は、生殖のための性別である。けれど人間である。劣等種への差別と人権の問題はなくなることはない。

この世には6種の性別がある。α、β、Ωの3種にそれぞれの男女。
αはいわゆる、性別のお貴族さまだ。すぐれた知性と高い身体能力を持ち、スター性を発揮するヒエラルキーの最上位。
βは平民、人口の大多数を占めるが特筆する特徴もない。まれに努力の力で成り上がるものもいる。
Ωは最下層だった。あらゆる分野で、できそこないが多い。彼らが唯一得意なのは、生殖行為のみ。つまり、セックスは優秀。発情期もあり、男女ともに妊娠が可能だ。Ωとやると最高に気持ちいいらしい、という都市伝説は嘘か真か。絶対数が少ないため、噂の域をでていない。

Ωに関するジェンダー問題は後をたたない。強姦被害は頻繁におこるし、社会的差別は根強い。Ωに同等の地位を!γと呼び方を変えよう!そういう社会運動も暴動のもとに繋がる。
もちろんΩになんの偏見ももってない人間もいる。
クラウス・V・ラインヘルツ。α種であり、本物の貴族だが、驕ることのない実直な性格をしている。


けれど正直レオナルドは、Ωという性種を心底軽蔑していたし、憎んでさえいた。





Ω化変異薬、という言葉にレオナルドは眉根を寄せた。Ω性のセックスを疑似体験する麻薬であるが、当然違法だし、依存性が高く、繰り返し使用するうち本当にΩになってしまう薬だ。相性によっては一発でΩ化する場合もあるという。
麻薬単体なら警察の範囲だ。ライブラが出るまでもない。問題はそれを使ってβをΩにして売りさばく、という人身売買の方だった。性玩具としてはもちろんだが、この世で最も優秀な種族、αはΩの腹からしか生まれないのだ。
「Ωになっちまえば性奴隷だろ?なぁ?」
そういった組織の人間を蹴り上げたのはスティーブンだった。彼に踏みつけられて、相手の顔に霜がおりていく。
「レオナルド、探せるか」
「それが、建物の中にはいないみたいで」
ゴーグルの下で義眼を発動させるが、それらしい場所は見当たらなかった。
「そう、困ったなぁ」
あまり困ってもないような口調で、わざとらしく踏みる蹴る力を強くする。踏まれているほうはもう歯の根があっていない。寒さと、恐怖。
今日のスティーブンはいつも以上に容赦がない。彼は、けっこうΩに優しかった。
ライブラの事務所にあつまるメンバーは、ツェッドとレオナルドをのぞいてαばかりだ。
そして旦那さんがΩのK・Kはもちろん、ほとんど全員がΩに好意的だった。αとΩは番という特殊な関係を築くことが多い。理性や感情であらがいようのない本能でもって結ばれる。αは恋人や家庭をもっていても、番のΩが見つかればΩを選ばずにはいられない。そういう運命らしい。
αはみんな、自分の番になるΩを待ち望んでいるのかもしれない。誰かれ構わずセックスするザップでさえ、Ωに出会うと期待するという。自分のただ一人の相手じゃないかって。
βのレオナルドには関係のない話だ。Ωなんて性奴隷じゃないか。そこまでは思わないけれど、それしか取り柄がないじゃないか、とは思う。


保護された人は多くがβからΩに変異させられた後で、うち2人が自殺した。
事件解決の晩、スティーブンは部屋にレオナルドを招くと、抱きしめてうごかなかった。彼は多くの事件を感情から切り離すのに、Ωが関わると自制ができなくなる。
レオナルドはただずっと、じっとしている。βでは、αとしての彼の苦しみを理解することはできない。彼が眠るまで、じっと、耐えるだけだ。
彼はΩを特別に思っている。いつか現れる番を、探しているかのように。
そのまま眠ったスティーブンに布団をかぶせて、レオナルドは彼の腕を抜け出した。
誰もいないリビングで、こっそり錠剤を取り出す。今日、全てを処分したはずの、Ω化変異薬。

レオナルドはΩを軽蔑している。
スティーブンはレオナルドの恋人だった。αのスティーブン。でも、βのレオナルド。彼の番はいつか現れるだろう。
Ω変異薬を握りしめて、レオナルドは迷う。これを飲んだからといって、Ωになるとは限らない。Ωになったからといって、彼の番だとは限らない。

薬を握りつぶして、ふりかぶる。けれど捨てられない。飲むこともできない。
Ωになることは恐怖でしかない。被害者の2人は自殺した。他人から、Ωは性奴隷だって、そう言われるような人間になんて誰もなりたくない。
けれどそんなΩが、いつかスティーブンを奪っていくのだ。


レオナルドは薬を丁寧にしまいなおして、スティーブンの腕の中にもどった。αをβにする薬があるとしたら、それがどんなに危険なものでもレオナルドは迷わずスティーブンに飲ませただろう。
けれどそんな選択肢はない。あるのは、Ωの境遇に身を投じる恐怖か、彼を奪われる恐怖。どちらも怯えつづけるだけの地獄だ。


1508??

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