10月末日、ヘルサレムズロットの外でも、今日ばかりは異形のものが街をひしめき歩いている。
 100pを越えたばかりのチビたちから、ちょっと照れくさくなりはじめた年頃まで。女の子はドレスを着て羽を生やして家々を訪ね歩いて、男の子はマントをはためかせたりペイントをしたりしている。
 それに比べてヘルサレムズロットはというと、もういい年こいた大人が、自前の触手を顔からうようよさせていたりする。
 お隣の細身の異界人が海賊の格好をしているから、パイレーツオブカリビアンのつもりなのかもしれない。いまいち、ハロウィンの変装なのか普段の格好なのか判断がつかず、盛り上がってるのか通常運転なのか区別がつかないのが難点だった。
 そもそも人間側としては、ハロウィンなんて人界のみの習慣だとおもっていたのだけれども、意外や意外や、もとより異界と人界がまじわるという設定の10月31日は両世界で似たようなお祭りをする傾向があったらしい。

 人界のハロウィンはお菓子をくれなきゃ悪戯するぞとお菓子をねだる。
 異界のハロウィンは、目玉をよこせと無礼講の乱闘騒ぎらしい。

 そんなわけで、レオナルドは31日は日付がかわる前からライブラの事務所に避難させられていた。異界人たちは実際に目玉を奪ってしまうからだ。
 それでも24時間同じ部屋に居続けるのはけっこうきついものがある。動物園の動物には同情してしまう一日になった。
 夜もふけてきて、街の目玉祭がますます盛り上がってきたころにはレオナルドはいろいろと飽きてしまっていた。事務所にはレオナルドと、事務仕事の残るスティーブンだけ。事務所住まいのツェッドは三人分の夕飯の買いだしにでかけてくれている。
「スティーブンさん、なんか手伝うことってないですか?」
「残念ながらもうないよ」
 最初こそツェッドにゲームを教えて2人でやっていたレオナルドだったが、時間がたつにつれて暇になっていく。夕方くらいから何度もスティーブンに簡単な仕事をもらっては、30分程度で終わらせてしまってまた暇になるの繰り返しだった。
「あと4時間で日付も変わるし、それまでの辛抱だ。今日は早めに寝るといい」
「っすね。義眼とられるわけにもいきませんし」
 ライブラに入って数年、義眼を返還したいいのはあいかわらずだが、対吸血鬼戦においての重要性はよくわかっているつもりだ。それ以外にも便利アイテムであることにはかわりない。
「ちがうだろ。それじゃ僕らが冷血漢みたいだ」
「へっ」
 もうとっくに冷めただろうコーヒーを一口のんで、スティーブンはあくびをした。レオナルドのために彼は今朝、日が出る前から事務所につめてくれている。
「それじゃぁ君は、足が切断される祭りだったら僕に『血凍道が心配です』なんて言うのかい?」
「いや、それってどんな人でなしですか」
 足が切断されるハロウィンを考えてみるが、そもそもスティーブンに限らず他のメンバーだって心配だ(それは目でも同じことだけど)。
 よもや血凍道の心配なんて、むしろピンポイントではしないだろう。
「あのねぇ、僕らだって義眼が心配なんじゃないよ。君には借り物の目でも、僕らにしたらそれは『君の目』なんだ」
「…………スティーブンさんって理系でしょう」
「うん? なんだい突然。得意科目は社会だったけど、まぁ化学も嫌いじゃなかったよ」
 事務所のテレビではあいかわらずコスプレなのか、普段の格好なのか、判別にこまる異界人どうしがお互いの目をねらって大乱闘を繰り広げている。
 一方の異界人は目が3つあるが、もう一方には1つしかないから必死の形相だ。そうこうしてるあいだに1つ目の方がくりぬかれた。
「うげっ」
 ショッキングな映像に声にだして驚いたものの、被害者はまた目がぐるんと生えてくる。
「あー、だからあいつ狙われてるのか」
 スティーブンの言う通り、1つ目は他の異界人から大人気だった。
 画面にはちらっと赤い血がみえた。よくみたらツェッドが騒ぎに巻き込まれているじゃないか。3対1で鮮やかに勝利している。
 彼は強いからなんてことないが、これは帰ってくるのに時間がかかりそうだ。
 今日はどこもかしこも世界中がハロウィンで、子どもたちがお菓子をもらおうと家をたずねる。ヘルサレムズ・ロットでは大人がちょっと物騒なことをしていて、でもわりと日常みたいなものだ。
 ここじゃみんながおばけ役をしてる。
「スティーブンさん。さっきの足の話、よくわかんねっすけど、なんつーか、ありがとうございました」
「どういたしまして。足切りのときは僕を心配してくれよな」
「もちろん」
「まぁその場合でも少年が事務所待機だろうけど」
「はははですよねー」
 テレビの中ではツェッドがまた2人なぎ倒している。
 きっと明日も明後日も、パレードみたいな一日だ。



151021

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