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やっぱり君が好き(六月一日朝様へ)
「見てよ反ノ塚君!」
「あー、うん」
今日は反ノ塚君と水族館デート。めんどくさがりな彼氏――反ノ塚君だけど、なんだかんだ言って優しいんだよね。
「ほら、お魚いっぱい」
「そりゃあ水族館だから」
優しいんだよね。
「……あそこの魚の群れ、可愛いね」
「ああいうのって食ったら美味しそうだよな」
「……」
優しい。んだよね?
「反ノ塚君、ムードぶち壊し」
「そっかー? 普通だぞ?」
「普通じゃない!」
涼しげなブルーの世界。
水を自由に泳ぐ魚たち。
一緒にそれを眺めるカップル。
いや、カップル以外に家族連れとか友達でとか、そういう人がいるけど! せっかく付き合ってるのに!
「恋人らしいこと1つもしてない」
「そうだっけか?」
「そうだよ!」
いつも「めんどくさい」って外出したことなかったし。結構涼しいここなら、と選んで来たのに!
ちょっと睨んでやれば、垂れた目が困ったように私を見返す。がしがしと頭を掻いて。
「名前。それこえー」
「誰のせいだと」
「俺」
「うん」
「ですよねえー」
ぷい、と彼に背を向けて私は次の水槽へ移る。後ろからちゃんと反ノ塚君はついてきてくれてるようだ。水槽に遷る姿で確認する。ちょっとしょんぼりしてる? 言い過ぎたかな。
ゆらゆらと水中を泳ぐ魚の群れ。ほわほわ、という効果音が聞こえてきそうなクラゲ。可愛いアザラシ……。水族館なんて、いつ以来だろう。
ふと隣を見れば、仲良く手を繋いでるカップル2人。楽しそう。いいなあ、私も反ノ塚君と回りたい。好きなのに。何でああいう風に言っちゃったんだろう。頭にくるとついつい口が悪くなってしまう。前の喧嘩で「この万年無気力男!」と罵った事もあったし。
反ノ塚君、楽しんでないよね。嫌な思いさせたな。久し振りのデート。私から誘ったのに。
「ねえ、そりの――」
振り向いたけど、そこに彼はいなくて。
「あれ、ついてきてたはずじゃ」
はぐれた?
辺りを見回しても、やっぱりいない。楽しそうに見つめている他のお客さんたちから私は孤立しているような錯覚に陥る。一人ぼっち。寂しい。
「反ノ塚君」
「呼んだ?」
「わ!?」
いきなり現れたかと思うと、私の頭をポンポン軽く叩く。
「いきなりいなくなって、驚いた?」
「そりゃあ、そうでしょ。……!」
「これ、なーんだ?」
目の前に差し出されたのはイルカのストラップ。青いハイビスカスをあしらったビーズの先に、ちょこんと可愛いイルカがぶら下がっている。
「イルカ……」
「名前、イルカ好きだったろ? やる」
「これ、どこで」
「入口近くの売店。イルカのぬいぐるみ、見てだだろ。さすがに持ち合わせなくてそれは無理だったけど、これならいいかなってさ。ほらお揃い」
「――これ買うために」
反ノ塚君は2つ目のストラップを出した。お揃い。その響きが嬉しい。
「さっきの悪かった。ごめんな。俺、鈍いからさ。名前を怒らすような事、これから先あると思うんだよなー。でも」
「でも?」
「水族館デート、楽しみにしてたから。これは本当」
お前の分。そうやって渡されたストラップを眺める。ご機嫌取りのつもりか、と意地悪な考えが頭を過るけど、でも、脳内の半分を占めているのは反ノ塚君への感謝でいっぱい。
「反ノ塚君は優しいね」
「うん?」
「ありがとう。私も、ごめん」
「いいよ。あれくらい言ってもらった方が、俺も助かるし」
優しく微笑んだ顔に、ちょっと胸がキュンとした。ああ、やっぱり私、反ノ塚君大好きだ。
「ペンギンのとこ、行こうよ」
「そうだな」
反ノ塚君がごく自然に差しのべてきた手を、私は取った。
繋いだ手は温かくて。反ノ塚君と来て良かったなあって、そう思ったんだ。
Fin
20120709
朝ちゃんのサイト1万打記念。初いぬぼくです。連勝…だよ!?これからも自分のペースで頑張って下さい
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