名前変換
私の声に耳を澄まして(mamacros様へ)
私の声に耳を澄まして、聴いて欲しいの。
***
「天羽君、天羽君?」
「……」
「あの、天羽君」
「ぬわっ!!」
「きゃ……っ!」
ヘッドホンを付けて声に気付かない天羽君の肩を軽めに叩いたら驚かれてしまった。その驚き方が急にだったので、私は思わず声をあげてしまった。
「びっ、びっくりしたのだ〜、ぬ? 俺の肩叩いたの君か?」
ヘッドホンを外して天羽君は私の方を向いた。
「名前か〜」
「ごめん驚かせて。これね、天羽君今日日直だったでしょ?」
日誌を書くようにと私は担任の先生に頼まれ、天羽君を捜していた。今日はラボじゃなくて珍しく教室にいたんだね。ちなみに私は宇宙科で唯一の女子生徒でもある。
「先生が日誌渡すの忘れてたんだって」
「そっか、ありがとな。ぬー……面倒くさい」
「天羽君は何してたの?」
机には真っ白なコピー用紙。それには何か図面みたいな物が書かれている。
「次の発明の設計図。後もうちょっとで完成なのだ!」
「へー、見たい見たい」
いいぞ、と彼は歯を見せてにかっと笑った。天羽君は無邪気な小さい男の子みたいだな。背はすっごーく大きいんだけど。
そうそう。発明の設計図も気になるけど、もっと気になることがあるんだよね。この際だから訊いちゃお。
「はい、質問です」
大きく挙手する。
「何だ?」
「天羽君ってヘッドホンで何聴いてるの?」
「うーんと、色んなの聴いてるぞ! ラップとかポップスとか――ぬはは、そうそう演歌とかっ」
「発明する時ずーっと聴いてるんだよね」
「うぬ。曲に乗って作業がはかどるのだ。そうだ。名前も聴いてみるか?」
「うん!」
力いっぱいうなずくと天羽君が私を手招きする。どういうことなのだろう。
「聴かないのか?」
「聴く、よ?」
じゃあもっと寄らないと、と天羽君は椅子を引っ張り出して掛けるように促した。
「……」
私は無言で彼の隣に座る。これは……、あれかな、ヘッドホン半分このパターンなのかなぁ。
「ほい、名前はこっち側で聴いて」
「う、うん」
案の定、互いに片側のヘッドホンで曲を聴くことになった。彼が気付いてなくて、私だけ意識してるって何か――悔しい。
「俺の最近のおすすめは――」
耳に伝わってくる曲も、天羽君の無邪気な笑い声や説明も、今の私には届いてない。
代わりに鳴り響くのは、私の心臓の音。
今までよりすごく早い。トクトク、トクトクトクトク。爆発しちゃうんじゃないかって思うくらいに。
天羽君に聞こえてないかな。そっと隣を窺う。彼は楽しそうに目を細めて「ぬぬ、ぬーん」と口ずさんでいる。
聞こえてないんだ。良かった。良かったけど、さ……。
やっぱり悔しい。もどかしい。胸の中がくすぐったいんだよ。
「天羽君、私ね。君のこと――」
「――名前? 今何か言ったか?」
「ううん、何も。何でもないよ。曲、まだまだ聴きたい」
「ぬいぬいさー! まだまだいっぱい聴かせるからなっ」
天羽君、私弱虫だからちゃんと決心したら言おうと思う。
その時は面と向かって告白する。
だから、私の声に耳を澄まして。
「天羽君のこと――好きだよ」
Fin
20110606
mamacros様へ相互記念に捧げます!
遅くなって申し訳ないです(>_<)これからもよろしくお願いします…!
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