名前変換
月が綺麗ですね(六月一日朝様へ)
――月が綺麗ですね、雄飛さん。
「ああ、そうだな」
その夜は、美しい満月だった。暗い夜の海に、金色の穴がぽっかり開いたような、そんな月。
俺は名前が寝るベッドに腰掛け、窓からそれを眺めていた。
――雄飛さん、あのね。月が綺麗ですね、っていう意味が解りますか?
「は? そのままじゃないのか?」
名前が言ってる意味が理解出来ずに訊き返す。
――違うんですよ。かの有名な夏目漱石が、ある英文を訳した言葉なんです。
「ほーお。んで、その意味は何だよ?」
――……ひみつ。
ちょっとばかし顔を赤く染め、俺から目を逸らす。
「言えないくらいエロいのか。残念だな、ぜひお前の口から聞きたかったんだけどなあ」
――ちっがいます! 雄飛さんのスケベ!
「ふうん、そーかそーか」
――むむむ、ムキになって言うだろうって作戦には引っかかりません。
「ちっ、バレたか」
――雄飛さんのバカー。
むくれる名前の頭を、そっと撫でてやる。
「あと3年経ってたら、このまま押し倒してやったんだけどなあ」
――……?
「あー、意味解んないならそのまんまで良い。というか、純粋なままが可愛げがある」
ますます意味が解らないといったように、首を傾げる。名前は曖昧に微笑んで、そして、言った。
――雄飛さん、私ね。そろそろみたいなの。
「そうか」
――ホントはね、あと1ヶ月も生きられなかったの。雄飛さんに会えなかったら、私、きっと泣いてばっかりだったよ。
「1ヶ月前、お前に出会ったんだよな。病室にいて、泣いてたお前を、俺が見つけた」
あと1ヶ月しか時間がないの。泣きながらそう言った名前に、俺は意地の悪い笑みを浮かべてやったのだ。
「なら、お前は随分勿体ねぇことしてんじゃないのか? たった1ヶ月しか、じゃない。1ヶ月『も』あるんだ。お前の病気がなんなのかは知らねえが、後悔しない生き方を、その1ヶ月でしてみろよ」
――あれがあったから、やりたいこといっぱいやったの。友達が出来て、かけっこしたり、イタズラしてみたり……好きな人が出来たり。
「好きな人、ねぇ」
――雄飛さん、私ね。その人を置いていくのが心残りなの。
「気持ちは伝えたのか?」
――ううん、でも、きっと分かってくれるよ。
「そうか」
名前はふんわり、優しい笑みを浮かべ、目を閉じた。
「ねぇ、月が綺麗でしょ雄飛さん」
「あっれー、兄貴何でデカいの?」
病院から出てきたところを妹に見つかった。八重がキョトンとした顔で俺を見た。普段の俺は小学生サイズだから、そんな顔すんのも当然だろう。名前と会う時は大人サイズに戻る。
「んー、見送ってきた」
「あー例のあの子ね」
「そうだよ。毎日泣いてやがったから気に食わなかった」
「あの子、笑って逝ったね」
「……だな」
土地神だから分かる。街の様子がどうなのか、八重には分かる。神様は何もしない。寿命を延ばそうなんて、甘い考えは持たない。
例え、それが好きになった奴でも。
「涙を拭いてよ、改めて世界を見なきゃ分かんねえんだよ。てめぇの世界はこんなにも広くて、知らないことがいっぱいある。なのに、自分が可哀相だって、泣いて、嘆いても何も変わらねえ」
名前、お前は変われたか?
「さて、と」
馴染みある小さな身体に戻り、タバコを銜える。
「帰るか」
「とか言いつつ、私の太腿に手を這わせるの止めてよ兄貴」
「気にすんな」
「エロ兄貴!」
八重に殴られ痛む頭をさすりながら、夜空を見上げた。
――月が綺麗ですね雄飛さん。
「ああ、そうだな月が綺麗だな名前」
俺はお前より永く永く生きている。だから、その意味は知ってるんだよ。
I love you...
Fin
20110121
月が綺麗ですね、はマジネタですよ。ロマンチック雄飛さん(笑)
相互ずっと書こう書こうと思ってたのに、遅くなってすんません(^^;)愛は詰め込みました←
朝ちゃんの文章、アイディアは尊敬の域です。これからもよろしく!
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