積もる記憶とかき氷(白銀)


「かき氷?」
「そうそう。エジソン君が珍しくマトモな発明してくれたんだよねー」
「白銀先輩、それが?」

 新聞部の部室で、弓道部のインタビュー記事をまとめていたら、新聞部部長、白銀桜士郎先輩がやって来た。手にはペンギンっぽい大きな荷物。ちょうど他の部員は、それぞれの仕事を終えて帰ってしまったところだった。


「かき氷製造マシーン『削っちゃうんです2号』だって」
「それ普通に店で買った方が早いじゃないですか? ところで」

 一体今までどこに行っていたんだろうか? 神出鬼没だから本当に困る。まあ、その発明とやらで見当はつくのだが。

「どこに行ってたか訊く必要はないですね。生徒会室ですね。もう、先輩の担当なのに後輩の私に押し付けるなんて!」
「くひひ、いいじゃない。ねえ? 名前ちゃん、こういうの早いしよく出来るし。俺、結構尊敬してるんだよ?」
「……そう言っておだてて誤魔化してもダメですからね」
「バレた〜?」

 調子良いんだから。先輩に褒められた(?)からってドキドキなんかしてない。してないんだから……。残りの仕事は先輩にやってもらおっと。

「で。それ、どうするんですか」
「どうするって。かき氷作ろうと思ってね」
「誰が」
「俺」

「と」と、私に指を向けて

「名前ちゃん」
「はあ?」
「いいじゃん、やろうよ。暇だもん」
「暇? 明後日の掲載に間に合わないとこなんですけど!」
「作って食べたらやるからさ〜。お願い」

 何でゴーグルした変態に首傾げられて可愛くおねだりされてるんだろう、私。

「……はあ。食べたら絶対に記事の残り、やって下さいね」
「はいはーい。了解。名前ちゃんのそういうところが好きだよ、俺」
「バカなこと言わないで下さい」

 彼に限って、この言葉に他意はないのだ。動揺を抑え込んで、平常心を保つ。

「じゃあテーブル片付けましょう」
「はいはーい」

 新聞部は意外に散らかってはいないのだ。テーブルの道具を素早く脇に退かして、生徒会の会計が作ったというかき氷機を置く。主役は誇らしげに鎮座した。

「手動って……」
「電動は生徒会が持ってっちゃって」
「その会計の子は2台作ったんですか」
「そうそう。手動と電動と1台ずつねー」

 爆発の危険が少ない物を選んだよと呑気に笑う。爆発? 訊き返したが、笑い続けるだけで答えてくれなかった。不吉だ……。

「器あるー?」
「ありますよ。丁度いいガラスの平たいのが」
「氷はさっき貰ってきたよ。ほい、じゃあ俺の出番だね!」

 髪を掻き上げ、先輩は気合いを入れる。氷は入れたし器もセットして準備は万端。ハンドルを握ってぐるぐると回し始める。

「結構力入れないとダメなんだね、これ〜」
「え、まさかもうギブとか言いませんよね。男子高校生の底力を見せて下さいよ」

 氷が細かく削られ、器に重なっていく。がりがり、がりがり。先輩がプルプルと腕を震わせながら削っていく。

 かき氷を作るのって久しぶりだな。昔は家に機械はあったけれど、今は寮生活だし、祭りで売ってるのを食べるくらいだ。

 なんか、いいな。こういうの。

 白銀先輩と作るのが、また良いっていうか。とにかく楽しい。昔――小さい頃の自分に戻ったみたいで胸が弾む。

「体力ないんですね」
「おっかしーなー。鍛えないとヤバいのかも、俺」
「私が代わりますよ」

 選手交代。今度は私の番だ。張り切ってハンドルを握ってみるけど、あれ? 意外に固い。

「これ、機械の問題じゃあないんですか」
「俺もそう思う。エジソン君、失敗したんじゃないかな〜」
「エジソン?」
「その会計の子のあだ名。俺が付けたの」
「先輩、あだ名つけるの上手いですよね」

 うーん、動かない。困っていると、上から手を重ねられた。

「あ」
「っし! 行くよー、名前ちゃん」
「……」

 先輩のおかげか、ハンドルはゆっくりと動きだす。きらきら、きらきら。氷の欠片が積もっていく。

「先輩」
「なあに」
「昔、家族とこうやってやったことあったんです」
「へえ。楽しかった?」
「はい。お父さんが、なかなかハンドルが回せない私の手を取って、やってくれたんです。一緒にこうやって。今の白銀先輩みたいに」

 そういえば、勉強が忙しくてここ最近実家に帰ってない。帰ろうかな、夏休みは……。

「息抜きになりそう?」
「そう、ですね。ありがとうございます」

 先輩、何考えてるのか解らない人だけど、でも――まあ、周り良く見てるんだよね。息抜きは、私のため。集中すると休憩も挟まずひたすら記事編集しちゃうから。それを見越して誘ってくれたのだろう。

 こんなこと言ったら、買い被りすぎって返されそうだけど。

「白銀先輩ってば、ホント、ズルい」
「くひひ、何が?」
「何でもないです」

 2人分の氷が出来たのは、それから10分後。













 ――だったけど。



「シロップないですね」
「あー! 俺としたことが」
「詰め甘いですよね」
「う。人が気にしてることを……」

 このまま氷だけ食べる気にはならない。シロップ、せめて1種類くらいあればいいのだけど。

「購買にないか、見てきます」
「俺も行く!」
「先輩の奢りですからね」
「え〜? そりゃないよ名前ちゃん」

 財布を持ったのを私はしっかり確認して、部室を出る。隣には先輩。きっと、帰って来た時、あの氷は融けてしまっているだろう。作り直しに決まってる。

 また先輩と、作れる。

 手間なのに、それがとても嬉しくて。たまにはこういうのも悪くないのねって、そう思えたんだ。



Fin



峰河さん、リクエストありがとうございました!相互も感謝しております\(^o^)/これからもよろしくお願いします!

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