恋する乙女の思惑(七海)
今日は流れ星が見えるらしい。
図書委員会の仕事をしている私に、彼がそれを告げて知った。
「ペルセウス座流星群の時期か、……忘れてた」
「お前、今日の授業寝てただろ……。陽日先生が力説してたぞ?」
しかめっ面でこう言ったのは、同じクラスの七海哉太。いつも授業はサボり気味。よく居眠りしてる奴だ。今日は珍しく起きて授業を聞いてたらしい。
ペルセウス座流星群。確か、しぶんぎ座流星群と双子座流星群と並ぶ三大流星群だったわね、確か。
「てへっ」
「何が『てへっ』だよ。真面目に授業受けろよバーカ」
「何よー、たまたま真面目に授業受けたあんたが言わないでよね」
だからあんなに陽日先生が張り切ってたのか……。納得。
流星群か……見たいな。というか、天文科として、これは逃しちゃおけないわよね。
「んで、それがどうかした?」
「どうかって――それは、その……苗字は寝てて知らねーだろうから、一応教えてやったっつーか……」
狼狽える七海君。何が言いたいのかなんとなく解るけど、ここはあえて気付かないふりをしてみる。
「教えてくれてありがとう。今日の夜部屋から見てみる」
微笑んで図書委員の仕事に戻る。貸し出し本のチェック、早くしないと終わらないのよ。
七海君は立ち去らない。ちょっと、カウンターの前に立ってたら他の人が本借りれないじゃない。
「どうしたの? そこにいたら邪魔になるよ、七海君。用事がそれだけなら帰った帰った」
ああ、私が本当に言いたいのはこういうのじゃないのになぁ。なんで素直に言えないのかな。
すると、七海君が意を決したように口を開いた。
「っ、苗字。俺と星、み、見に行かないか?」
「ん?」
「月子が苗字と見たいっつってたし。錫也がお前の分の夜食作ったし。羊も久々に帰ってきてお前に会いたいって」
私は貸し出し用紙やら本やらを見て俯いているので、七海君の表情は解らない。けれども、きっと彼は今、真っ赤になっているだろう。
「――七海君はどうなのよ」
「は?」
「だって、3人が楽しみにしてるのは解ったよ。私と見たい? 楽しいとか思う?」
「当たり前だろ、楽しみだよ! わりぃかよ!」
突然の大声。私は思わず顔を上げた。やっぱり真っ赤になってた。図書館にいた生徒の視線が一斉に私たちに集まる。七海君はしまった、とでもいうように口元を押さえる。
それを見て、私の心の隅っこが、恥ずかしさでくすぐったくなった。にやけてしまう頬を懸命に抑える。だから、私は七海君のこういうとこが好きなんだよな。
「笑うなっつーの」
「いや、だって。ねぇ?」
「あー……俺カッコわりぃ……」
うなだれてしゃがみ込んでしまいそうな彼。何で直々に私を誘いに来たんだろうか。もしかしたら、あの幼なじみたちに焚き付けられたのかも。
何にせよ、彼と流れ星が見られるのはすごく嬉しいことに違いなかった。
彼をからかったら、暗いとこでもこの真っ赤な顔を拝むことが出来るかもしれない。
「良いよ、一緒に行こう」
今年の双子座流星群は彼と2人だけで見たいな、と私はにっこり笑って返事をした。
Fin
20110812
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