バイバイ花粉症?(天羽)
「ふっふぇっ、はっ、ハックション!!」
ズビーッと鼻をかむ私を、同じ1年生の翼君が不思議そうにじぃーっと見ている。
「なっ、なぁに翼君」
「ぬぬ〜、名前どうしたんだ? 最近鼻水やくしゃみばっかりだぞ」
「かっ花粉症なの! ハックション!」
特大のくしゃみをすると、翼君は「うぬぬ〜」と何やら思案中。
「名前、辛いなら今日はもう上がれ。保健室か病院行ってこい」
こう言ったのは、一樹生徒会長。只今、生徒会室で仕事中なんだけれど、さっきからくしゃみばかりで全然手に着かない。ズビーッっと鼻をすすり、目を擦る私。机には今日中にやらなきゃいけない書類の山が。
「でも会長……」
「会長命令だ」
「……はい」
「名前さん、うさぎみたいに目が真っ赤ですね」
副会長の颯斗先輩も、今日は無理しないでと言う。
「後から月子さんも来ますから。翼君にも頑張って――翼君?」
いきなり、すくっと立ち上がった翼君。何か決意したみたいな顔をしている。
「よし、決めた。名前のために俺、薬を作る」
「えっ?」
「はぁ?」
「翼君?」
私も、会長も副会長も、天羽君の言葉に唖然としてしまう。
「ぬはははっ。花粉症を治す薬を作るのだ! そうしたら名前は帰らなくていいんだぞー」
「翼君、病院行けば大丈夫だから」
しょっちゅう起こる爆発を想像して、私は慌てて断った。
「うぬぬ〜、分かってないなぁー。病院の薬は花粉症を抑えるだけで完全には治らないんだぞ〜。だからここは、天才発明家、天羽翼に任せるのだ!」
いや、確かに花粉症はかかったら治らないそうなんだけどさ。
「何も今、やらなくても」
「だって名前が帰ったら、俺寂しい。その名前が花粉症で苦しんでると悲しい」
「……」
言い訳する子どもみたいに口を尖らせている。
「だから、頑張るのだ。待ってるんだぞ」
そしてラボに閉じこもってしまった。
「……って、ちょっと待って! 今のどういう意味!? 私帰ったら寂しいって、どういうこと? 翼くーん!」
そんなの作ったらノーベル賞受賞もんだよ、翼君!
「翼ぁぁっ、実験は今やるなよっ」
「……翼君には、いつも驚かされますよ」
後ろで溜め息をつく会長と副会長。
「会長、これって私のせいですか?」
「ある意味な」
「そういえば、前に名前さんが『肩こりがヒドい』って言った時も、マッサージマシン作ってましたね」
ありましたね、そんなこと。
「名前。翼を何とかしてから帰ってくれ。お前の言うことなら聞きそうな気がする」
「ええっ? 根拠もないこと言わないで下さい」
私が抗議すると会長は
「根拠はある。翼は、きっとお前のこと気に入ってる。じゃなきゃ、さっきの台詞なんて言わないだろ」
「気に入って……? はぁ、そうなんですかね」
なんだかんだ言って、翼君は出来た発明を私に一番に見せてくれる。
「……いい友達を持ったんですね、私」
「…………友達、か」
「…………友達、ですか」
会長と颯斗先輩の声がハモった。そして互いを見つめ苦笑した。私は何か変なことを言ったんだろうか。
「――あー。痒い目が痒いっ」
ゆっくり考えてみようかと思ったら目の痒みがぶり返してきた。せっかくだから保健室に行かず翼君の発明を待ってみようか。何よりラボにこもって頑張る翼君に悪いから。
何より、発明が出来た時の翼君の満面の笑みは好きだから。
Fin
20104013
加筆修正
20101001
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