空飛ぶ鳥は、願いを聞かない(天羽)


 俺を置いていかないで。
 俺は、自由に飛べないから。



 楽しい時間はいつか終わる。
 終わった時は、いつもいつも心にポッカリ穴が空いたような、虚しい、やり切れない気持ちになる。

 それが、たまらなく寂しくて。
 悲しくて、苦しくて、辛くて、切なくて。

 「何か」を失うのが怖い。だから、関わらないようにしていたのに。

 君が、心の隙間に入り込んだ。



 待ち合わせの時間、約束通りに彼女は屋上庭園に来た。先に来てベンチに座っていた俺を見つけ、嬉しそうに駆け寄ってくる。

「早かったね、翼」
「ぬはは、当然。彼氏が彼女を待たせちゃいけないだろ」

 隣に座った彼女に、俺はマフラーを半分こして首にかけてあげた。

「ありがとう。冬の空気は澄んでいて星がきれいに見えるけど、寒いもんね」
「2人でいると、ぬっくぬくだな」
「そうだねぇ。ね、何で急に星見ようって誘ってくれたの?」
「この間、ぬいぬい達と星を見たんだ。生徒会のみんなと見るのも楽しかったけど、今度は君と2人だけで見たいって思ったから」
「ありがとう」

 夜空を見上げれば、冬の星がキラキラ輝いている。

「冬の第三角形見つけた!」
「ベテルギウスに、シリウスに、プロキオン。君は見つけるのが早いな」
「へへん、天文科の2年生の実力だよ。そうそう、翼ってベテルギウスが好きなんだよね」
「そうなのだ。大きくて赤いのが良いんだよな〜」

 彼女が書記の友達だってことは知っていた。ただ、それだけ。

 なのに、何の接点もない俺の実験を手伝ってくれたり、発明品を試してくれたり……。爆発に巻き込んじゃっても、彼女は俺の傍にいた。

 ――なぁ、何で実験に付き合ってくれるんだ?

 またまた爆発に巻き込んでしまった時、彼女に訊いたことがある。彼女は、ちょっと考え込んだ。そして、俺を見て笑った。

 ――んー、何でだろう。翼君の夢を応援したいからかなぁ。翼君の行動って、私にしたら突飛なことで非常識な時もある。だけど、ワクワクするんだよ。このワクワク感を、翼君と味わいたい。

 ――俺といると、ワクワクするのか?

 ――うん。楽しい、君といると。


 そんなことを言われたのは初めてだった。笑顔が眩しかった。その日から、気付けば彼女ばかり目で追っていた。

 気付いた気持ちはいつの間にか大きくなって、溢れて――。

 ずっと一緒にいたい。俺には大切なものが出来てしまった。

「翼。今日はありがとう。本当に嬉しい」
「ぬははは〜、さっきから君、そればっかりだ」
「だって、嬉しいんだ。大好きな人と見られるんだから」

 急にベンチに立ち、両手を大きく広げた。

「こうやってるとさ、鳥になった気分。どこまでも飛べそうだよ」

 夜空をバッグに微笑む彼女は、本当にどこかに飛んでいっちゃいそうだった。
 心の中に湧き上がった不安に、俺は思わず

「ダメ、飛んで行かないで」
「え?」
「……怖い。君が、鳥みたいに飛んで、俺の手の届かない所に行っちゃいそうで。俺を置いていかないで。俺は、自由に飛べないから」

 つい最近まで彼女は進路に悩んでいた。だけど、自分のやりたいことが出来た、と将来の夢を見つけた。
 彼女は、積極的で何にでもチャレンジする。活き活きしてる。自由に飛ぶ。鳥みたいに、空を。何にも囚われずに。

 置いていかれそうになる。君は、俺の願いも聞かず、遠く遠く、追い付けない所に行くんじゃないかって。

 彼女は、俺の顔を呆気にとられたように見つめていた。――そして、俺をふわりと抱きしめた。

「バカだなぁ、翼は。そんな心配しなくて良いんだよ。私こそ、翼が遠くへ行っちゃうんじゃないかって不安になったことがあるよ」
「……君が?」
「うん。翼には、夢があるでしょ。宇宙船を作って、大切な人を宇宙に連れて行くって。それが、羨ましかった。将来の夢がしっかり決まってる翼に、追いつこうって焦ってた……。そうか、翼も私と同じなんだね」

 知らなかった。同じだったんだ。願いが届きそうにないくらい、自由に飛ぶ君が。

「……翼、失うのが怖いって言ったよね。変わるのが怖いって」
「うん……」
「でもね、変わらないのもちゃんとあるよ。翼への気持ちも変わらない。ワクワクして、出会った時のドキドキも変わらない」
「俺も、君が好きな気持ちは変わらない」
「失うものも、あるかもしれない。だけど、変わらないものも確かにある」

 彼女の言葉の1つ1つが、心に染み渡っていく。俺は、彼女を抱きしめ返した。


 生徒会に入って、俺は変わった。
 彼女のおかげで、さらに変わった。

「俺も、飛べるかな」
「当たり前じゃん、君の名前は『翼』だよ。飛べるよ、その翼で」

 飛べなくなっても、待ってるよ。ちゃんと待ってるよ。

「俺……」
「こら、しんみりしない。腹の底から笑えって言ったのは誰? 『ぬははは』って笑え、ね?」

 楽しい時間はいつか終わる。
 終わった時は、いつもいつも心にポッカリ穴が空いたような、虚しい、やり切れない気持ちになる。

 ――だけど。

 変わらない物が、ちゃんとここにあるから。

「ありがとう。落ち込んでられないな。ぬはは〜」

 俺は、空を飛ぼう。

 君が、一緒だから。



Fin

20100516

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企画サイト
君ニ、願ウ様に提出

お題通りにいけたかなぁ?翼は大好きですが、口調が…!似てないかもしれん!
乱文失礼しました;
ありがとうございました

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