抗えない声
イタチさんの綺麗な指から放たれた二つの手裏剣は、これまた綺麗な軌道を描き飛んでいく。
そしてもう一つの手裏剣を飛ばせば、よくわからない方向に飛んでいったのにも関わらず、待ち合わせをしていたかのように、先に投げた手裏剣とカツンとぶつかる。
そうすると不思議なことに、三つの手裏剣がそれぞれ違う的の真ん中に突き刺さった。
「こういう感じだ。わかったか?」
「…すみません、よくわかりません。」
投げた手裏剣がカーブを描いて戻ってくるのは…まぁ、わかる。
だが、ぶつかり合った手裏剣が二つは弾かれた先に真っ直ぐに、もう一つがカーブを描いてこちらから見た木の幹の裏に当たるのが、もう理屈がよくわからない。
「ぶつかった手裏剣の軌道が変わるのが、意味わからないんですが。」
「こればかりは自分で感覚を覚えるしかないからな。
これ以上は俺にも説明できない。」
つまりは、いくら優秀な師であっても弟子がやる気がなければ何も教えられないわけで。
元々手裏剣術は苦手で、どちらかというと手数で誤魔化してきたのでイタチさんに教えてもらったのだが、あまりのレベルの違いにどうしようもないことがわかった。
「別に、今の技量があれば問題ないんじゃないか。」
「相手を錯乱出来る手も欲しかったのですが…努力で真似できるレベルじゃないことがよくわかりました。」
完全に集中力が切れてしまい、息を吐きながら地に座る。
昼過ぎから付き合ってもらっていたのに、もう西日も陰ってきていた。
それなのに、成果なしだ。
「今日やって今日習得できるものでもないさ。」
「シスイさんからは、イタチさんは一回見ただけで完璧にできてたって聞きましたよ。」
「…たまたまだ。」
イタチさんはそう言って誤魔化すように、的に刺さった手裏剣を取りに行く。
たまたまな訳がない。
シスイさんが投げるその瞬間、指の動き、手首のしなり、シスイさんの視線、息の使い方、手裏剣の軌道、ありとあらゆるものを余さずに見ていたに違いない。
写輪眼の恩恵もあるだろうが、たまたま運良く出来たなんてのはありえない。
一度でうまく行くように、その一瞬に自分にあるだけのものを注いだのだ。
それはある者からは天才と一言で片付けられるものであり、またある者からは努力の賜物とも呼ばれるものなのだろう。
イタチさんは前者で評価されるのが大半なのだろうけど。
「そんな顔をするな。
こんな手裏剣術よりも、お前にはお前の強みがある。」
膨れ面でもしていたのか。
振り返ったイタチさんがそう言う。
充分なんかじゃない。
私はイタチさんと対等…いや、それ以上に強くなりたいのだ。
イタチさんよりも強く在れれば、イタチさんの背負ってるものや不安からイタチさんを守れるはずなのだから。
きっと、
「いえ、私はまだ…」
きっと…
とん、と背を押される。
顔を上げれば、イタチさんが優しく笑みをたたえていて。
「大丈夫、お前の実力は誰もが認めるものだ。
何も気負う必要はない。
お前はお前のままで充分だ。」
どれほど追いかけたって
私はこの人を後ろから見守ることしか出来ないのだろう。
それは私の諦めなのか、本能的に感じ取ってるものなのかはわからないけど。
「なぁなまえ。
俺は、お前の戦い方が好きだよ。
命懸けで戦ってる姿に、こんなことを言うのは不謹慎かもしれないが…
真っ直ぐに相手を見据えるのも、風のような身のこなしも、烈火の如く振るう剣術も。
不得手を克服するために努力するのは良いことだ。
でも、それで今の自分の良さを殺してしまうのは勿体ない。」
「…。」
「まぁこれは、俺の個人的な思いだからお前の気持ちを否定する気はない。
でも、お前の体術や剣術に感心してるのは本当だ。
それこそ努力したからってできるものじゃない。」
そろそろ帰ろう。
イタチさんは、何でもないように歩き出す。
あぁ嫌だ。
心臓が煩い。
そうやって貴方は私を肯定して、私を諦めさせる。
きっと、イタチさんが居る限り
私はイタチさんを超えることはできないのだろう。
貴方が生きてる限り、貴方を守れないなんて…
そんな私が嫌いです
例え聞こえない程の言葉でも、それを口に出すことは出来なくて。
「…おだてても、何も面白いことはできませんよ。」
貴方の言葉を否定できない弱い私は、
そんなありきたりな常套句をその背に投げるしか出来なかった。
ーーーーーあとがき
めっっっっっつちゃくちゃ遅くなり申し訳ございません…!!!!
リク頂いていたイタチさんと一緒に訓練のお話になります。
イタチさんが心配してくれる、というのも入れてみたのですがわかりにくいですね、ちょっと方向性もずれちゃいましたし(汗)
でも、本編ではあまり書けなかったので、暗部時代の二人の日常的なお話を書けて楽しかったです(*´ω`*)
ご期待に添えてないかもしれないですが、リクエスト頂きありがとうございました(*≧∀≦*)
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