たまには、そんな特別も
 


深い緑の山の中
イタチさんと干柿鬼鮫と数日にわたり歩き続ける。

山道を抜け暫く、景色が変わる。
開けた視界に歩き続けると数人の旅人とすれ違う。


「そろそろ、宿場町が近いようですねぇ。」


干柿鬼鮫がそう言って暫く、町の看板が目に入る。
そこは人の往来が盛んな町だった。


「土の国の辺境地に、このような活気付いた町があるとは驚きですね。」

「ここはいくつかの小国との国境にある。
ある種、ここが大国への抜け道なのだろう。」


そんな二人の会話を聞きながら、目線だけで辺りを見回す。
見たところ、交易が盛んではあるがチラホラと忍の姿(一般人を装っているが)が見受けられる。


別段詰所もなく、何もなく町に入る。
町の中では幾人もの商人が風呂敷を広げている。


「ちょいとそこのお兄さん方。
お宿を探してるならどうだい?安くしとくよ。」

とある宿屋の前で、そう引き止められる。


「2部屋空きはありますかね?」

「少し離れてますがそれでよければ。」


いつもの如くスムーズに、干柿鬼鮫が宿の手配を終わらせる。

そしていつも通りその大きな手には鍵が2つ。
だからいつも通りに1つを受け取る。

廊下を二手に別れ、部屋に入る。
至ってシンプルな、しかし、ひとり部屋にしては広い部屋だった。

窓から周りを見る。
目下には、薄暗い路地があった。

あまり見るもんじゃないな、とカーテンを締め切る。


さてと…どうせいつも通りイタチさんに置いてかれるだろうから、刀の手入れでもと胡座をかく。が、

トントン、とタイミングよく扉が鳴った。
緊急の任務だろうか。


「どうしました、イタチさん。」

「少し付き合え。」


すぐに出れるように、と刀と面を近くに置いていたから返事と同時に部屋を出る。
が、出ようとした直後にイタチさんから待ったがかかる。


「どうしました。」

「面と刀は置いていけ。」


何故。
わからずイタチさんを見ると、よくよく見直すとイタチさんはいつもの暁の外套は来ていない。

潜入任務だろうか?

そう思い、刀と面を部屋に置いておくわけにもいかないので巻物に仕舞う。
そうしてポーチに入れれば、イタチさんは特に何も言わずに歩き出す。


いつも居る、干柿鬼鮫の姿はない。
まぁあの図体に形相では目立ちすぎる。

イタチさんもある意味目立つが、一般人に見えなくもない。


そのまま黙ってイタチさんの半歩斜め後ろを歩く。

目的も、向かう場所もわからないが、イタチさんであれば必要になれば教えてくれる。
だから特に問う必要はない。


ガヤガヤと絶えない喧騒にときおり通る客引きの声。
賑やかな雑音の中に潜む忍の音。

人だけではない、食べ物、武具、宝石に動物と、ここはとても色んなものが混じり合っている。
情報が、多い。


「少し、逸れるぞ。」

雑音を遮断するかのようにクリアに聞こえるイタチさんの声。
それに従い静かな裏路地に出る。


「人酔いしたか。」

イタチさんの声に、ああこれが人酔いというものなのか。と、この感覚の名を知る。


「少し、音が多くて。でも時期に馴れます。」

「悪いな、付き合わせて。」


イタチさんは1ミリも悪くなくてただ私がこういう場に慣れてないだけでむしろこうして煩わせてしまってる私が悪いです。

と、思わず一息に言えばイタチさんはキョトンとして。
しまったと思うも、どうにもイタチさんに謝らせるのが嫌で仕方ないのだから致し方ない。


「…そうか。」

「はい。ということで、お気遣いなく。」


私がそう言うと、イタチさんは再びゆるりと歩き出す。

背中に揺れる黒い髪。
裏路地に零れる陽射しに、サラサラとひかる。


随分と、イタチさんも髪が伸びたなぁなんて考えているとイタチさんが角を曲がる。

そうすると一軒の店があった。
ディスプレイに並ぶのは服を着たマネキン。

「ここに用事が?」

「あぁ。」

イタチさんに着いて店に入る。
人はそこまで多くはない。潜入捜査はここなのだろうか。

店内を観察するが、忍らしき者も、怪しいものも特に無いように伺える。
ただの服屋…のはずだ。


「お嬢さま、お嬢さま。
試着室はあちらですので。」

突然近くでかけられた声に思わず体が固まる。
目線を向ければ、店主なのかスタイリッシュな女性が何やら服を何着か持っている。


「いや…私は…」

「大きさが合うか見た方がいい。」


想定外のイタチさんからの肯定に、イタチさんを見て固まる。
うん?どういうことだ?


「えぇと…状況がよく飲み込めないのですが?」

「お前の服を見繕いに来た。」


ええ?!
と大声も上げるにもいかない口は、あんぐりと開く。
その間もイタチさんは何やら物色している。


「新しい服を買ってあげたいけど、自分じゃよくわからないからって…良い旦那さまですね。」

おほほ、と店主は上品に笑う。


そうして呆けている私の背を店主が押して、試着室に服と共に入れられてしまう。
思わぬ事態に相変わらず固まる。


試着しましたらお声がけください。


という店主の声に、ようやくその手に持たされた服を見る。
カーテン越しに、店主がイタチさんに何やら話してるのが聞こえるが、ともかくこれを着ないと前に進まないのはわかる。


…。



「あらあらまぁまぁ!よくお似合いで!」


試着室から顔だけ出し声を掛けると、直ぐに店主は接客に来た。
こんな風に人に見られるのは慣れていないので、サイズが合ったのがわかったのなら、直ぐに着替えたい。

店主のテンションにゲンナリしていると、イタチさんの視線に気付いた。
折角連れてきてくれたのだから、楽しまないと失礼…


「どうです旦那さま、もう少し明るいお色もいいのでは?」

「ふむ…あれはどうか。」

「あら、このお色は奥さまによく合いますわね。
であればこちらなんてどうです?」

「駄目だ、丈が短すぎる。」


心なしか和気藹々としながら、イタチさんと店主は店の奥に行ってしまった。
この際夫婦に見られているのは突っ込まないでおく。


それからあれやこれやと、色を変え、種類を変え、着せ替え人形よろしく着替える。
最初こそ着慣れない服を見られるのに羞恥心があったが、後半には見られることに慣れてしまった。

が、外を見ればそろそろ日が落ちそうだ。


「あの…そろそろ店仕舞いの時間では…?」


未だにあれそれ論議している2人に声を掛ければ2人揃って窓に目を遣る。


「あらやだ私ったら!
あれもこれもお似合いで、旦那さまの目利きも的確で楽しくなっちゃってたわ!」

おほほほほ、と上品に笑う店の主人。
イタチさんとここまで話すこの店主、只者ではないのでは。


「で、どれが気に入った。」


こ、ここで私に決定権を渡しますか?!

突然の無茶振り。
何着も着たから何が何やら正直覚えてない。
そんな心の声が顔に出ていたのか、イタチさんがするりと試着の終わった服に目を向ける。


「俺は、これがいいと思うが。」

「あ、あの…これ普段着には難しいような…」

これだけではなく、この店にある商品全てに言えるが刀を振り回す毎日を思えば普段着には出来ない。
直ぐにダメにしてしまうだろう。

そう困っていると、イタチさんは静かに口を開く。


「着るタイミングなら、俺がつくるさ。」

「…それならば、イタチさんにお任せします?」

「あぁ、任せていればいい。」


店主は何やらキャーキャー言っていたが、イタチさんは流れるようにお会計をしてしまう。

自分がと言っても、付き合わせた礼だと。
これ以上言ってもイタチさんが譲ってくれることはないので、潔くお礼を言う。


店を出て帰路に着く。
いつの間にか、日は落ちていた。


「あの、最初に服屋に行くと言ってくれれば…
ずっと潜入捜査かと…。」

「"お前の服を買いに行く"、と言ってお前は素直に着いてきてくれていたか?」


それは…、と言葉に詰まる。
自分でもわかる、きっと全力で拒否していたと。


「でもなんで服を?」

「たまには、いいだろう。」

あまり深く考えるな。と、そのままイタチさんはスタスタと歩き続ける。


真意はわからないけれど、イタチさんとこうして出掛けられたのがどこかこそばゆく、嬉しい。
面で隠せないニヤけてるであろう顔を、何とか引き締める。



宿の自分の部屋に戻って買ってもらった服を広げる。
イタチさんが選んで、イタチさんが与えてくれたものだ。



大切にしよう。



その1日は、新たにイタチさんを知ることができたようで
ただただ特別だった。























ーーーーーあとがき
めっっっちゃくちゃ、めっっっっっつちゃくちゃ遅くなって申し訳ございません!!!!
そして安定の本題に入るまでの長さ…ご期待に添えてる自信は全くないですが、ご査収ください_| ̄|○
服のセンスは管理人皆無ですので、どんな服を贈られたかはご想像にお任せいたします←
でも、この服ネタ繋がりで夢をつむぐも書きたいななんて思いました!
たぶん、夢主はこの服を刀並みに大事にしてるのでまだ持ってると思います。
こういうお話を書く機会を頂きありがとうございました(*^_^*)



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