今度こそは手を離したくなかった
 


とある国境。
うちはサスケは大筒木一族の調査を1人、続けていた。

トンビの鳴き声が響き渡る、静かな何もない場所だ。
故に特段何も気に求めず歩き続けていた。

が、その静寂を割ってこの環境には居ないはずの、烏の鳴き声が鼓膜を揺さぶる。


なまえの烏だ。


その脚に括り付けられている紙を広げる。


"至急、火影室へ"


要件は書いていないが、なまえの烏が遣いに来るということは緊急事態のはずだ。
ここから普通に走れば1週間はかかる。

サスケは、左目の輪廻眼で空を見上げた。














「…取り敢えず、サスケに伝言を届けられたみたい。」

「何もこんなことのために憑物の能力を使わなくても…」

なまえの瞳が青から赤に変わる。
なまえは憑物のクロの能力を使って遣いの烏をサスケの元へと飛ばした。

憑物の能力はそのリスクにより、極力使わないよう木の葉の上役から止められていたのだが。


「こんなこと…?イタチくん、自分の身に起きてることの重大さをわかってほしい。」

「しかし…」

「まぁまぁ、サスケだってイタチに何かあったっていうのを後で知ったら落ち込むでしょ。」

「たぶん後で俺がめっちゃ怒られる…つか八つ当たりされるだけだけどもよ、まぁ今回は事が事だしな。」


皆の意見に、イタチはぐっ、と黙る。
例え弟が自分より大きく、そして強くなったとしても相変わらず弟には弱い。


「…、流石に早いな。」

なまえが扉の方を見る。
すると空間が徐々に歪んでいく。

そこから見知った黒い男が現れる。


「おい、何があった。」

「お!サスケ。お早い到着だね。
もう大変大変、イタチが大変なことになっちゃってさ〜。」

「っ、イタチが?!呑気にやってる場合か!
イタチはどこにいる。」


いつもののんびりした調子で話すカカシを、サスケは苛立ちを隠すことなく睨み付ける。
ナルトはもういい大人なので、そんな様子のサスケを見て、込み上げる笑いは押し込み真剣な顔を崩さない。


「サスケ…イタチくんが…」

なまえがサスケに向き合う。
そしてサスケは視線を下にさげる。


「こんなことに…」

「…。」


肩に手を添えられたイタチが、なまえの前に立っている。
その姿を見て、サスケの時は止まった。

それは、サスケの中の遠い記憶にいるイタチの姿で…


「に…いさん…?」

「おい、サスケ?!」


幼い兄を見て、在りし日の思い出が走馬灯のように脳内を駆け抜けたサスケは、膝から崩れ落ちる。
その想定外の様子に、ナルトとイタチはギョッとする。

カカシとなまえは何となく予想がついていた。
というより、サスケが来る前にイタチのこの姿を見てなまえも膝から崩れ落ちたからだ。


「ちょ、おいサスケ!しっかりしろよ!」

「サスケ、大丈夫か?」

「…状況を、説明しろ…」


サスケの絞り出した声にカカシは遠慮なく噴き出す。
その脇腹になまえが肘を入れる。


「あー、ごめんごめん…
えーと、古い書庫の整理を手伝ってもらってたんだけどさぁ、まぁ色々あって古ーい巻物が落ちてきて、近くにいたイタチがその術を食らっちゃったのよ。」

「不覚でした…。」

「いや、イタチくんは全然悪くない。
色々というか、カカシ兄さんがデカイくしゃみしてその拍子に棚が揺れて巻物が落ちたんだけどね。
何のためのマスクなんだろうね。」

「カカシ…あんたはいつもいつも碌なことをしない。」

なまえの言葉を聞き、サスケがギロリとカカシを睨み付ける。
カカシはそれに堪える訳もなく、へらへらと表情を崩さない。


「いやぁ〜俺アレルギー持ちでさぁ。
埃っぽいところダメみたい。」


ははっとカカシが軽快に笑う。
そんな兄の態度になまえは眉間にシワを寄せながら溜息を吐く。


「そんなことよりイタチ、体の具合はどうだ。」

「体の具合は問題ないのだが…その…どうやら10歳までの記憶しかないらしい。」


は?とサスケは再び固まる。
無理もない、イタチが余りにも普段通りすぎて記憶まで退化してるなんて、一見そうは見えないのだから。


「ここにサスケを呼ぶと言っていたし、ひと目見てサスケだとわかったよ。
こんなに大きくなるんだな。」

「…あんたは、冷静過ぎだ…。」


サスケは嬉しさと悩ましさで頭をうなだれる。
ひとまず兄の健康に問題はないらしい。
だが、いつ戻れるのかはわからない。
であれば…


「ともかくイタチ、あんたのことは俺が暫く面倒を見る。」

「「え??」」


目の前のイタチと、そしてその後ろにいるなまえの声が重なる。
だが両者の声色は異なる。


「サスケ、心配なのはわかるがお前は木ノ葉に戻ってきてからもやることがあるし、何より小さい子供の面倒なんて見慣れていないだろう。
私が見る。」

「特務機関長様にそんな時間があるとは思えんが。
まさかイタチを特務機関に連れていくと?
それと子供の面倒ならそこのウスラトンカチの息子の面倒で慣れている。
アンタこそ慣れてないんじゃないか?」


イタチを挟んでサスケとなまえの間で冷ややかな、しかしバチリと火花が散る。
この事態をわかっていたカカシはマスクの下でほくそ笑み、シカマルはめんどくせぇとため息をつく。


「ま、まぁまぁ2人とも。
どっちが見たって安心だし…。」

見かねたナルトが宥めるが、2人は変わらず視線を外さず睨み合っている。
どちらも譲らない、そういうことだ。


「2人とも、そう言ってもらえるのは有り難いが…
まずは解術が得意な人間を紹介してもらえると助かるんだが。」

「そだねー。術が解ければ全て解決だね。」

「「…。」」


無意識に、一生イタチの面倒を見るつもりでいたサスケとなまえ。


解術に関しては医療のスペシャリストのサクラに診てもらうのが最善。
今度はどちらがイタチを連れていくかで揉め、結局2人で行くことになったのだが…



「…。」

「…。」

「…。」



木の葉病院に行く途中、サスケとなまえに挟まれて歩くイタチ。
その両手はしっかりと握られている。
これでも妥協案だった。
どっちがイタチを抱えて病院に行くかで揉めたのだ。
(妥協案は勿論カカシが面白がって提案した)


イタチはこの状況に内心困っていた。
喧嘩が収まったのはいいが、何とも気まずい。
というか、まだ年相応といってもこういったことは恥ずかしい。

父母にさえ、こうして手を引いてもらったことが朧げな記憶の中にあるような、ないような。


「あの…やっぱり普通に歩けるから手を繋ぐのは…」

「何言ってるんだ。攫われる危険があるんだぞ。」

「そうだ、里の中だからと言って安心はできないよ。」


意見が一致する2人。
だがしかし、2人はイタチに注力していて気付いていない。


「ねぇ…あれって…」

「サスケさんと特務機関長さん?
でも真ん中の子大きいみたいだけど…」

「サスケさんはお子さんも奥さんもいるでしょ?
え、そういう…??」


街の人々から疑惑の目を向けられていることを。
たぶん、自分が2人の隠し子だと疑われている。

こんな白昼堂々としているのだから、疑いは自然と晴れるだろうが、どうなるかわからないのが人の噂。
ここはちゃんと…


「サス「パパ…?」」


少女の声にサスケが振り向く。
その視線の先には見知らぬ黒髪の少女がいる訳だが、サスケを"パパ"と呼んだということは、この子はサスケの娘で自分の姪っ子ということになる。


その姪っ子がサスケとなまえさんを交互に見て、そして俺を見る。
その目は明らかに動揺していて…


「パパ、どういうこと??」

「話せば長い。今は急ぐ。後で説明する。」

「意味わかんないから聞いてるんだけど!
なに、私やママに言えないことなの?!!」

「いや、サクラのところに今から…」

「はぁ?!ママに説明しに行くの?!!
この状況を??説明してどうするわけ!!?」


…絶妙に会話が噛み合ってない気がする。
というより、サスケの言葉が足りなさ過ぎて火に油を注いでる状態だ。


この子はサスケとサクラという人の子供だ。
そうして父親と母親以外の女性が、小さな子供を間に挟んで手を引いていれば疑うのは当然で…


「サラダちゃん、落ち着いて。
何か勘違いしてると思う。」

「勘違いなんてしてない!
ママは何も言わないけど、ずっと変だと思ってたの…。
パパとなまえさん一緒にいること多いし、なまえさんはママよりパパの昔のこととか知ってるし。
私、ママの子じゃなくてなまえさんが本当のママじゃないのかって思ったこともあったの。」


仏具のおりんの音のように沈黙が走る。


これはとんでもない状況になってきた。
姪っ子の言葉になまえさんは消沈してしまう。

そんななまえさんとは反対に、自分はこの姪っ子がサスケとサクラさんという人の子だというのに何処か安堵していた。

この人のことについて、今の自分の中に記憶はないけれど。
きっと未来の自分なら知っているであろうこの人が、時間が経つにつれて自分の弟と特別な関係のように見えて、どこか置き去りにされているように感じていた。

それが、弟が他の誰かと既に家族になっているという事実を知って、この手が誰かの為のものじゃないということに何故かほっとした。

無意識にぎゅっと握った手を、なまえさんは握り返してくれて、"大丈夫、イタチくんのことは絶対守るから"とやんわりと笑む。
だがその瞳の奥に、深い深い何か強い覚悟が見えたから、それが何故なのか気になってしまった。


「サラダ、お前は何を言っているんだ。
こいつはガキの頃に一緒に住んでただけで…」

「それが変って言ってるんじゃん!
もうパパは黙っててよ!!」


何のフォローにもなってないサスケの言葉に姪っ子の瞳は遂に涙腺が崩壊し、泣き出してしまった。
その様子にサスケは動揺して何も言えなくなってしまう。
事態の悪化になまえさんは胃を押さえて蹲ってしまった。


遠巻きに人の目もある。
状況は最悪だ。


どうすればいいと、頭をフルに使って言葉を探す。
だが悲しいことに幼い自分には、解決するための言葉が見つからない。

なまえさんの立場を、自分が守らないといけないのに…


そんな時、ポンと後ろから肩に手をあてられる。


「やぁやぁやぁ。
ちょっと気になって様子を見にきてみれば…こりゃあ予想以上に大修羅場になってるねぇ。」


ニコニコとカカシさんが人の良い笑顔を浮かべていた。
この場において、救世主と思わせる落ち着いた風格。
助けに来てくれ…


「六代目…!六代目は知ってたんですか?!
パパとなまえさんが…っ」

「うんうん知ってるよー。
原因は遠からず俺にあるからねぇ。」


…違った。
わかった上で絶妙に勘違いしそうな言葉を選んでいる。
見る見るうちに姪っ子の表情が崩れていく。
この人、少なからずこうなることがわかっていて敢えて2人に行かせたんだ。

そのせいで、なまえさんは…


「…カカシさん…」

「やだイタチくん、写輪眼出せるの?!
あ、そっか。お前この歳で暗部入ってたんだもんね。」

「いたちくん…?いたち…、え。
イタチにい?!!」



己の名を出していれば即解決していたという事実に、頭をハンマーで殴られたような衝撃が走る。
灯台もと暗しというか、己の未熟さに嫌悪した。


その後、木の葉病院でサクラさんに診てもらい無事に解術し元の体に戻れた。
そして、皆の心に深い傷を残したその禁術の巻物は、サスケとなまえさんと自分の手で、現世から葬ったのは言うまでもない。





















ーーーあとがき
りさ様、本当に本当に遅くなり申し訳ございません…!!!!!
一年以上経っているかと思うので、もうサイトにいらしてないかもしれませんが、三万打リクエストで頂いた、イタチさんが子供になるお話になります。
いつか書いてみたいと思ってたネタだったので、書いてて大変楽しく、だいぶギャグに走ってしまいました(>人<;)
遅筆過ぎな上に趣味に走りまくってるので、全然期待通りじゃないかもしれませんが、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
改めて、リクエスト頂きありがとうございました!!!!



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