My cousin!! | ナノ


 16 変化するもの



後ろから回された腕を見て、その手を思わず掴んだ。

初めて会ったばかりの時は同じ背格好だと思っていたが、指が細くて全体的に丸みのある手は、こいつが女なのだと感じさせた。

「お疲れ様」と言われた時に、俺の中で何かが終わったと同時に晴れやかな気分にもなった。

目の前から降り注ぐ月光、そして薄く、しかし堅く立ち塞がるガラス張りのドア。

そのドアを開けて、新たな世界にでも出たような、そんな気分だ。



「しばらくお前の肩貸せ」
「…仕方ないから許してあげる」



自分のいとこながら、つくづく可愛げのない奴だと思う。

初めて会ったときにわざと遠ざけるようなことを言ったのは、自分に対して険悪な心を持たせるため。

変に優しくしてつけ上がらせたら面倒だと思い、最初から突き放しておこうと思った。

『いとこ』という血縁関係がある以上、切っても切れない縁であることはわかっていたからだ。

しかしコイツは、どんな嫌味を言っても俺のもとへやってきた。

それに加えて、俺に対抗するかのように暴言を吐く始末だ。

面白い、と思った。

俺様の血縁関係者だとしても、恥ずかしくない気前だ。

そして、コイツはきちんと「俺」を見てくれる唯一の女でもある。

氷帝テニス部部長でもなく、跡部財閥の御曹司でもない、素の跡部景吾というものを。

実を言うと、早朝ランニングをしているコースの途中で、コイツを何度か見かけたことがある。

こちらを静かに見つめて、しゃしゃり出るわけでもなく見ている姿。

それに、コイツが年に1回泊まりに来る理由が叔母様とのケンカでもないことも知っている。

もしそれを指摘したとしたらそれはそれで面白いだろうが、俺は言う気はない。

…別に悪い気はしてねえからな。

そしてコイツとの約束は、守ることができなかった。

『全国大会の決勝で俺様のテニスを見せてやる』

出来ない約束をしたわけじゃない。

出来て当然の約束をしただけであって、決勝でコイツに一番の席を用意させて、俺様のテニスを見せつけてやるつもりだった。



「……認めたくねえ」



この現実を。

不意に力の抜けた俺を支えるように、茜は俺の腰にまわした腕の力を強めた。

こんな姿、コイツにだけは見せたくなかった。

しかし、この姿を見られても許せる相手もコイツしかいなかった。

最初に突き放していたのは俺なのに、いつの間にコイツに依存していたのか。

それは自分でさえもわからなかった。

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