ヒトナツの恋 | ナノ


▽ 17-世紀末


「もう…皆本当に頭固いなあ」
「ご、ごめんなさいです…」
「だったら千石、テメエが考えてみろ」
「ふっふーん、俺はちゃんと模範解答を用意してきたんだ♪」



得意げな顔でルーズリーフを取り出した千石は、そのルーズリーフを皆に見えるように回し始めた。

左端に縦書きでに書かれている言葉は「せいきまつ」。

突然謎の会話から始まってしまったが、この会話の発端は昨日のことである。

準備の息抜きにどうぞ、と昨日ナツから渡されたのは「あいうえお作文をやってみよう」という小さな冊子だった。

廊下を一人でフラついていた千石は、その冊子を受け取ると首を傾げる。



「なんだい、これ」
「あいうえお作文です、それぞれの学校の人に息抜きとして楽しんでもらおうと思いまして」
「へえ…あいうえお作文か♪」
「壇君たちと遊んでみてくださいね、山吹中のお題はこれです」



渡されたメモには「世紀末」とだけ書かれていて、他に何か書いてある様子はない。

つまりこれは世紀末であいうえお作文しろ、ってこと?

そう聞こうとした時に、ナツは口を開いた。



「各校でお題は違うので、文化祭中に各校で1番上手な作文を放送しようと思ってるんです」
「それって会場中に響き渡るの?」
「まあそういうことですね」
「ふむふむ、それってさ1番上手な作文を作った人が放送のときに自分で読むの?」
「いえ、その学校の人だったら誰でも読んでくれていいですよ」
「そっかぁ♪」



ここでニヤリと笑った千石を不審に思う人物は誰もいなかっただろう。

ナツもその一人であり、「詳しいことが決まったらまた話にきますね」と会話を締め括った。

そしてその日中に山吹の面々にそのことを伝え、翌日には千石は山吹中メンバーを集めて各々考えてきてもらった「あいうえお作文」を聞かせてもらっていたのだ。

そのあまりの山吹中メンバーの才能の無さに冒頭の会話へと戻る。

千石曰く、模範解答だという「あいうえお作文」が書かれたルーズリーフは人々の手を回り、遂に亜久津のもとにやってきた。

ピラッと人差し指と中指で挟むようにルーズリーフを受け取ると、眉間にシワを寄せて目を細めた。



「どーお、亜久津?なかなかうまくできてるでしょ?」
「ケッ…なんだよこれ」
「何ってあいうえお作文に決まってるじゃん、亜久津ってばそんなことも」
「チッ、それはわかってる!誰が放送するのかって話だよ!」
「そりゃあ亜久津が」
「やるわけねーだろ」



くだらねーと最後に呟き、隣の壇へルーズリーフを押し付けると亜久津はどこかに消えていく。

「ちょっとー亜久津ー」と千石が後ろから呼びかけても振り向きもしなかったが、千石は大して困った顔はせずにほっと息を吐いた。

さすがに亜久津がこんなことやるわけないよねー…



「じゃあ壇クン読んでみない?」
「ええっ、嫌ですよ、こんなの!」
「むー…南はガラじゃないしなー…」
「なんだって!?」
「遅れたわ、ごめんな」
「あ、白石クン!」



壇から返ってきたルーズリーフと「どしたん?」と事情がわかっていない白石の顔を見比べ、千石はパチンと手を叩いた。

これはもう白石クンしかいないかなー♪

千石はポンッと白石の肩を叩いた。



「白石クン、遅れてきた代わりに頼みたいことあるんだけどいーい?」
「おん、なんでも言ってや」
「ちょっと文化祭中に放送してほしいことがあるんだよね」
「任せとき!」
「じゃあこれね、詳しいことはナツちゃんに聞いてねー♪」



哀れみの目で白石を見つめる山吹のメンバーに、白石は首を傾げることしかできなかった。

そしてルーズリーフを見た瞬間に「ハメられた」と痛感したという。



山吹中あいうえお作文

せ 世界中で
い 1番
き 君のことを
ま 守り愛し
つ 続ける



「なんで千石先輩は自分で放送しなかったですか?」
「んー?だって俺が言ってもなんか軽いでしょ、それに比べて白石クンなら王子様みたいじゃん♪」





世紀末

―山吹中のあいうえお作文

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