▼ 英語が苦手
俺とねーちゃんは、二人とも英語が苦手だ。
俺は勉強そのものがそんなに好きじゃないけど、英語は特に苦手だ。
反対にねーちゃんは他の教科の勉強はある程度できるけど、英語だけはびっくりするほどできない。
俺でも明らかに間違っているとわかる英語ですら、ねーちゃんは正解だと言い張る。
とーちゃんは、前にも言ったけど外資系の会社で働いている。
年に何回か外国へ出張に行くし、英語も当然だけど得意だ。
なんで俺たちに英語の才能が引き継がれなかったんだろうと、とーちゃんはよく不思議そうに首をひねっている。
得意までとはいかなくても、こんなに毎回赤点を取るような成績になるとは思っていなかったらしい。
ねーちゃんが中学に上がって英語のテストだけ赤点を取ってきた時にショックを受け、俺は赤点にならないようにと願っていたらしいけど、その願いは叶わなかった。
英語なんてさっぱりわかんねえし、意味不明な記号が並んでるようにしか見えねえ。
俺の言葉を聞いたとーちゃんははっきりと諦めたようで、それ以上英語について何か言ってくることはない。
外国人と英語で会話するのは楽しいぞー、と言ってくることは今でもよくあるけど、まあそれくらいは仕方ない。
ねーちゃんは俺と違って英語が嫌いというわけではないらしい。
とーちゃんが「英語嫌いでもせめて…」と出張に行ったときに買ってきた外国のゲーム機を喜んで使ってるのはねーちゃんだし、海外のゲームもやる。
もちろん、すべて英語だ。
「ねーちゃん、全部英語だけどこのゲームの流れわかんの?」
「フィーリングだよ、フィーリング。文法はさっぱりわかんないけど、単語ならところどころわかるから」
やたら長い海外のRPGにハマったねーちゃんに話の流れを説明してもらったら、ほとんど合っていたことがある。
ネットで調べて訳されていた物語の流れとバッチリ合っていて、戦闘のシステムや道具もわかっているらしい。
特に迷うことなく選択して敵を倒していくねーちゃんの目は真剣そのもの。
言語を超えて、ゲームを楽しみたいからという理由で色々なものを吹き飛ばしているらしい。
ねーちゃんが外国のゲームをやるのは自分の部屋でだけだから、とーちゃんたちはねーちゃんがこんなに真剣に英文を追っている姿を見たことがないだろう。
一回リビングでやってみれば、と言ったことがあるけど、それは嫌らしい。
とーちゃんが機械みたいに正確な訳を言ってくるだろうからつまらない、と言っていた。
一体、ねーちゃんの頭の中はどうなってるんだろう。
「…ねーちゃん、この英語間違ってんじゃね?」
「どこが」
「A:(Do) you play tennis yesterday? B:Yes, I did.ってさ、他の例文だと全部Didから始まってるけど。DoじゃなくてDidじゃねーの?」
「いいの、いいの。[昨日テニスしたの?][うん、したよ]っていう流れが出来上がってるんだから、単語の一つ間違ってても問題ないって」
ゲームが絡まなくなると、とたんにこれだ。
俺もどういう理由でDidなのかはわかんねーけど、答えの本みたらDidが正解っぽいし。
それでもそのまま提出するというねーちゃんの隣で、俺も英語の宿題を始めることにした。
ねーちゃんの宿題も俺の宿題も、後日×だらけで返ってきたのはある意味想像通りだった。
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