切原さん家 | ナノ


▼ 夜更かし

ねーちゃんは、甘いものが好きだ。

あと、ゲームも好きだ。

俺とねーちゃんは、月に一回夜更かしをする。

とーちゃんとかーちゃんにも言って、ちゃんと認められてる夜更かしだ。

どこかの土曜日に、お互いの目が真っ赤になるくらいゲームをやり通す。

その時ばかりは短めのRPGもしたりする。

パーティの組み方とかでも喧嘩になるけど、それはそれで楽しい。

そしてこの月一回の夜更かし以外にも、俺たちはゲームをひっそりとやっていることもある。

たいていねーちゃんは「夜は寝ていたい」とか言うけど、ケーキやお菓子を渡せばなんだかんだ言って付き合ってくれる。

今日もクリアしたいゲームがあるから付き合ってもらうつもりだ。

そのためには、今日の部活が終わったらお菓子買ってかねえと。



「丸井先輩、お菓子持ってません?」
「菓子ー?持ってるけど、どうした?」
「ちょっと家に持って帰ろうと思って」



甘いものに詳しい丸井先輩に訊いてみると、最近出た季節のお菓子とかいろいろ教えてくれた。

どれもコンビニで売ってるらしいから、練習終わったらダッシュで帰ろう。

そう思っていたら、丸井先輩が感謝しろよとか言いながらお菓子を少しくれた。

今日の朝買ったばかりの新商品らしい。

そしてどこかで話を聞いてくれていたのか、ジャッカル先輩もブラジルの珍しいお菓子をくれた。

ねーちゃんが喜びそうだ。

鼻歌を歌いながら部活の準備をしようと靴ひもを締めていれば、隣でランニング用のウィンドブレーカーを着ながら丸井先輩が訊いてきた。



「でもお前、そんな甘いもん好きだっけ?」
「姉貴が好きなんスよ」
「へー、赤也の姉ちゃんか。見たことないな」
「試合とか見に来たことないっすからねえ」
「氷帝学園三年、切原赤子。好きなものは甘いものとゲーム、血液型は」
「うわあっ、どっから出てきたんスか、柳先輩!」



ねーちゃんは俺の試合を見に来たことがない。

一度だけ見に来たことがあるけど、「テニスが好きな赤也は好きだけど、テニスをやってるあんたは好きじゃない」と言われて、その後は来ない。

ねーちゃんの言葉は何回考えてもよくわかんねえけど、家で部活のこととか訊いてくるからテニスは嫌いじゃないんだろう。

自分の体を動かすのは嫌いみたいだけど。

そのままねーちゃんのことを話し続けそうな柳先輩を頑張って遮って、ラケットのグリップを握りしめる。

今日の部活も頑張ってこう。




家に帰ると、ねーちゃんはもう帰ってきていた。

家族みんなで夕飯を食べた後にねーちゃんの部屋に行くと、俺の手元を見て呆れたような顔をした。

でもお菓子の中にブラジルのお菓子が混じっているとわかると、ねーちゃんはすぐに顔色を変えた。

ねーちゃんはジャッカル先輩がくれるブラジルのお菓子が好きらしい。

近所のコンビニやスーパーじゃもちろん買えねえし、俺から貰わなきゃ手に入らないってことだ。



「ねーちゃん、この菓子やるから付き合ってよ」
「…肌荒れてるから早く寝ようと思ったのに」
「んじゃ、あとでまた来るわ!」



嫌そうな声をしてるけど、顔は喜んでるねーちゃんはちょっと不気味だ。

親にはバレないように、こういうときのゲームはねーちゃんの部屋でやることにしてる。

テレビがあるし、とーちゃんたちの部屋からも遠い。

俺の部屋に何回もテレビを置いてくれるように頼んでいるのに、とーちゃんとかーちゃんは俺にはテレビを買うつもりはないらしい。

姉弟で一つで十分、といつも言われる。

ねーちゃんの部屋のテレビを自分の部屋に持ってこようとしたこともあるけど、俺の部屋は何しろ汚い。

これ以上物が増えたら、掃除しろって今よりもっと言われることになっちまう。

ねーちゃんはとりあえず買い置きしてあるお菓子にさえ手を付けなければ勝手に部屋に入っても何にも言わねえから、俺も自由にテレビを使える。

自分の部屋に戻って、今日クリアしたいゲームソフトを引っ張り出す。

明日の朝はきっとまた、二人で寝不足だ。

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