チビマネと大王様 | ナノ


▼ 入部希望

部活の見学期間は二週間ほど用意されているため、男子バレー部以外のところも一応回ってみることにした。

野球部、テニス部、サッカー部、水泳部、陸上部。

男女問わず様々な部活を回ってみたのだが、やはりここに戻ってきてしまった。

第二体育館前、中からはシューズが床を踏みしめる音やバレーボールを扱う音が響いてくる。

そしてもう一つ、再び言い争うような声が聞こえてきた。

紗代がこの体育館前に来るときは、必ずこの二人が言い争っている気がする。



「この下手くそ!今週の土曜は試合だってのに…」
「うっせー、俺だって頑張ってるっつーの!…って、あ!お前!」
「ど、どうも」



紗代の心の中で勝手に「でこぼこコンビ」と名付けた一年男子二人組が、体育館の扉近くの脇で練習していた。

彼女がいることに気が付いた背の小さい男子が大声を上げれば、もう一人の目つきの鋭い男子もちらりとこちらを見た。

小さい方が日向翔陽、目つきが鋭くて大きい方が影山飛雄。

二人の名前の情報は男子バレー部副キャプテンの菅原から聞いたもので、この一年男子二人組は今週の土曜までバレー部への正式入部がお預け状態らしい。

この二人は中学からの絡みが多少はあったようで、あまりの仲の悪さにキャプテンの澤村が彼らの入部を拒否しているのだ。

これからチームメイトになるというお互いの存在にもかかわらず、あまりにも酷い。

それは紗代の目から見ても明らかで、この二人が同じコートに味方同士として立っているのはいまだに想像できない。

しかし今週の土曜には、この二人は同じチームでプレイするのだ。

相手のチームは紗代やこの二人と同じ、入部希望の新入生らしい。



「やっぱり男子バレー部のマネージャーになるの?」
「うん、まあ。やっぱりって?」
「いや、昨日来なかったから一昨日見学してやめたのかなって」



人懐っこい日向とは、すぐに友達になれそうだ。

しかしその隣でボールを抱えたままこちらを睨みつける影山に関しては、今のところまったく仲良くできそうにない。

なるべくそちらを見ないようにしたまま、紗代は無理やり笑顔を作った。

恐怖で顔の筋肉が固まりそうだ。



「他の部活を一応見に行ってみただけ。入部はやっぱり男子バレー部にしようと思って」
「じゃあ俺と一緒だ!俺、1組の日向翔陽!お前は?」
「1年2組の辻内紗代。よろしくね、日向君」
「日向君とかよそよそしいからいいって、翔陽とかで!」
「あ、辻内来た」
「スガさん!」



中から響いていたシューズやボールの音が止んだかと思うと、目の下に少しクマが見える菅原が体育館の扉の向こうに立っていた。

彼に対して深々と頭を下げて挨拶をする一年男子二人組に軽く手を挙げ、菅原は彼女を手招きした。

この前見学に来た時と同じように。

紗代が体育館に入ったのを確認すると、扉をゆっくりと閉める。

体育館の中を興味津々といった様子で覗く二人組の顔が見えなくなると同時に、菅原は笑って言った。



「やっぱり戻ってきたね」
「他の部活も回ってきたんですけど、やっぱりここが一番いいかなと思って」
「今の大地が聞いたら喜ぶなあ、あとでまたアイツの前で言ってくれる?俺もまた嬉しいし」



前回バレー部を見学した後に、他の部活も見てきたらどうかと提案してきたのは菅原だった。

一度練習を見たきりだったがすっかり入部するつもりだった紗代は意表を突かれたものの、強く勧めてくる彼の勢いに押されて見学をして回ることにした。

その結果、やはり決めたのはここだった。

速いスピードで放たれるアタックを目の前で見てしまったからだろうか。

このバレーボールが、どのような試合を展開していくのか見たくなってしまった。



「そうだ、先輩マネの清水、土曜の試合には来れるらしいから楽しみにしてて」
「一年生同士の対戦の日ですか!」
「うん、辻内が3年間付き合ってく奴らの高校初試合」
「おおーっ、辻内!来たか!」
「こんにちは、田中先輩」



部活開始時刻が迫ってくると、男子バレー部員が続々と着替えを済ませて体育館へと入ってくる。

紗代の姿を見つけ、嬉しそうにする先輩たちを見て、彼女も満面の笑みで答える。

やはり、ここに入ってよかった。

改めて上級生の前で自己紹介をする紗代の顔が輝く。



「1年2組の辻内紗代です。バレーボールは初心者ですが、精一杯サポートしていきたいと思います!よろしくお願いします」



三年間熱中する空間が、ここから始まった。

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