チビマネと大王様 | ナノ


▼ カラスとネコ

清水の家は本当に学校から近いようで、朝7時前から行われた早朝ランニングの時点ですでに朝食を作りに合宿所へやってきていた。

午前の練習を終え、昼ごはんのおにぎりを全員に配れば、体育館の隅でこちらに手を振る人影に気が付いた。

自分のおにぎりを片手に紗代が近づいていけば、そこにいたのは二人の部員。

一年の日向に二年の西谷、そこに紗代が加われば周りから「ちびっこ三人組」と称されるグループの完成だ。



「紗代、昨日の夜暇じゃなかった?」
「うーん、まあ暇と言えば暇だったかな。翔陽たちは下でなんか騒いでたね」
「紗代のところにも行って一緒に遊ぼうって声かけようかと思ったんだけどさ」
「月島と影山が邪魔してなー、こっちは先輩だってのに!」



彼らの話ぶりからすると、まるで月島と影山が自分を排除しているかのようだ。

きっと先輩マネージャーである清水のことはいつも有難いと思いながら尊敬していると思うのだが、対して自分はどうなのだろう。

失敗は少なくなってきたとはいえ、まだまだ新米。

清水と比べればその仕事の質も低く、もしかしたらバレー部の一員として認められていないのかもしれない。

月島はともかくとして、最近は影山とは普通に話ができるようになってきたのだ。

挨拶をして、ちょっとした雑談もしたりして。

それでもまだマネージャーとしての腕が足りないらしい。

月島に関しては、彼はおそらく自分のことが最初から嫌いなのだと思う。

出会ってのっけから突っかかってきた上、どうも「ちびっこ」として蔑まされているような気がしてならない。

無視されるのもきついが、会うたびに毎回皮肉を言われるのも精神的に来るものだ。

合宿してる間になんとしてもあいつらのガードを振り切って遊びに行くから、と張り切る二人の言葉を有難く受け取り、紗代は午後の練習の準備を始めようと立ち上がった。

凹んでばかりはいられない。

少しずつでもチームの一員として認められるような努力をしなくては。





合宿の最終日、音駒高校と烏野高校の練習試合が行われた。

何度も繰り返された試合は、すべて音駒高校の勝利に終わった。

もう一回、もう一回とやっているうちにいつの間にか帰りの新幹線の時間に間に合わなくなっていた。

正確に言えば、マネージャーである清水と紗代、そして烏野の顧問である武田は何度も指摘していたのだ。

そろそろ電車に乗らないと、新幹線に間に合わなくなりますよ、と。

しかし両校の部員やコーチ、音駒高校の監督は誰一人として耳を貸さなかった。

そうか、じゃあもう一試合。

その言葉を何度も言うだけで、きっと彼らも何を言われているかわかっていなかったのだろう。

やっと全員が満足いくまで試合をした頃、当然のごとく外は暗い。

烏と一緒に帰るような夕方はとっくに過ぎ、時刻は夜八時だった。

まだ電車も新幹線もある時間ではあるが、当初の予定からは大きくずれ込んだ時間帯であり、音駒高校のメンバーが東京に着く時間が遅くなってしまう。

散々話し合った結果、最終的に音駒高校が烏野高校の合宿所に一泊していくことになった。

幸いにも部屋は空いているし、ゴールデンウィーク中の課題をやるようにと最終日をオフにしておいたため、学校を休む必要もない。

ちょっとしたクラスとも思えるような人数になった合宿所の夜、清水は案の定家に帰ってしまった。

紗代は何度も「両親の許可は取ったからこちらに来てはどうか」と勧められたが断り、結局最後まで合宿所で寝泊りすることになった。

そして夕ご飯を全員が食べ終えた後、紗代が後片付けの仕上げに食堂の机を拭いているときに彼らはやってきたのだ。



「あっ、紗代見つけた!」
「でかした、日向!行くぞ、辻内!」
「翔陽に西谷先輩、一体どうし…ちょっと待って、台拭きを机に置かせて!」



騒がしい二人組により、紗代はついに男子の部屋へと足を踏み入れることになった。

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