チビマネと大王様 | ナノ


▼ 流星のごとく

紗代の今日の仕事はスコアボードの管理。

簡単に行ってしまえば、点が入った時にスコアボードの更新をする役目である。

ネットの延長線上に置かれたスコアボードの烏野高校側のパイプ椅子に座れば、青城高校側には一年生らしき男子が座る。

その男子から紗代は得点の簡単な見分け方を教えてもらった。

ラリーが終わった時、主審の手の挙げた方向にいるチームに点が入ったということだ。

なにしろ初心者である彼女は、バレーボールのルールが頭に入り切ってはいない。

あのポジションはどんな役割があるのか、攻撃にはどんな種類があるのか。

相手の高校の生徒に教えてもらいながら、紗代は目の前の試合を見つめ続ける。

日向と影山のあの驚くべきスピードの速攻は他校のバレー部員でも見慣れないようで、彼らは注目を浴びている。

自分と同じ学年の二人組が賞賛されていることを誇りつつ、周りを見てみるとにわかに制服姿の女子生徒が目立ち始めているような気がした。

この試合のことを聞きつけて、わざわざ放課後まで残っていたのだろうか。

二階のギャラリー席には、運動系の部活らしき男女と制服姿の女子が入り混じっている状態だ。



「青城の制服は可愛いと思わんかね、日向君」
「思います、田中先輩!」
「わははは!かっこいいところを見せ付けてやろう!」



彼女たちの存在によりテンションの上がっている先輩と同級生に苦笑しながら、休憩中の彼らにドリンクやタオルを渡す。

強豪だという青城相手に、烏野は善戦していた。

お互いに1セットずつ分け合ったこの試合は、3セット目に突入する。

再びスコアボードに戻り、傍らのパイプ椅子に紗代が座ると同時に体育館中に女子の声が響いた。

それはギャラリー席にいた制服姿の女子たちの黄色い声であり、複数の声が重なって何を言っているのかよくわからない。

一体何事なのかと思いコートを見てみるも、烏野の部員たちも状況がよくわかっていない様子。

しかし青城のメンバーは心得ているようで、小さくため息をつく者や苦笑を浮かべる者、表情の変わらない者など様々だ。

バレーについていろいろと教えてくれていた青城のスコアボード係に、この状況について聞いてみようか。

わずかに腰を浮かせて反対側の男子に声を掛けようとした紗代の頭に、不意に手が載せられた。



「やっほー。さっきぶりだね、チビマネちゃん」
「チ、チビ…!?って、さっきの…さっきの…!」
「キャー、及川さーん!」



紗代が続けようとした言葉は、周りのギャラリーの声援によって引き継がれた。

ぽんぽんと軽く撫でた後に、及川の手はすぐに離れた。

綺麗な笑顔を見せた彼は、驚く紗代をよそに青城の監督の方へと歩いていく。

着ているものは、さきほどと同じ。

なぜ気づかなかったのだろう。

白い生地に水色のライン、あれは青城の学校ジャージではなく青城のバレーボール部の部活ジャージだ。

「AOBAJOHSAI VBC」

背中が物語っているのは、まぎれもない真実。

監督と言葉を交わした後、再び彼は彼女のもとへとやってきた。

そして今度は肩を軽くたたきながら、ひらひらと手を振って去っていく。



「俺の活躍見といてよ、チビマネちゃん」



烏野のベンチの前を通る際、先輩マネージャーである清水から鋭い視線を感じた。

その視線を横目で確認した後、及川は完璧な笑みを浮かべてこう言った。



「そんな怖いカオしないでよ。あの子をからかおうとしてるんじゃなくて、ただ面白いだけだから」



だって、リアクションがあまりにも新鮮なものだから。

見かける度に、なんとなく手を出してしまいたくなる。

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