彼と彼女の導火線 | ナノ

 校則違反の男

正直言って、再び委員会の活動に参加するというのは気が重い。

しかし責任感の故か、放棄するという選択肢は思い浮かばず、結局は朝早くに学校に来てしまう。

約二週間ぶりの服装チェックだ。

その間に委員会もなかったため、委員会のメンバーとはあの時以来会っていないことになる。

教室に荷物を置いて、正門に向かってみればそこにいたのは柳生ただ一人。

ほっとしたような溜息をつき、楓はそちらへと歩いていく。



「柳生先輩、おはようございます」
「おはようございます。…よく来てくださいました、もしかしたら日向さんは来ないかもしれないと思っていたので一安心しました」
「ご心配おかけしてすみません」



心のどこかで柳生にまで責められていたらどうしようと思っていたが、その心配はなかったようだ。

こちらを見ている彼の表情は心配している顔そのもので、逆にこちらが申し訳ないくらいだ。

隣に立つ楓の顔をちらりと見てから、柳生は口を開いた。

真田は誤解されやすい人間だ。

自分がこうだと思ったことは意地でも曲げず、他者にも厳しくある。

しかし真田の厳しさは、他者にだけでなく自分にも向く。

むしろ、自分自身に一番厳しいといってもいい。

厳しくするのはその人を凹ませたいからではなく、その人のためを思って言っているのだ。

肝心なところが抜けてしまっているから、真田は勘違いされやすい。



「真田君は上級生にも注意するようにと言っていましたが、できる範囲でいいんですよ」
「ありがとうございます、柳生先輩」



テニスコートの方から真田が歩いてくるのが見えた。

徐々にこわばっていく楓の顔に、柳生は心配そうな視線を向けた。





今回の活動は誰も遅れることなく、全員が参加した。

その様子に満足したように頷き、真田は正門の横に堂々と立ち服装チェックを始めた。

楓も数人分離れたところで、同じように登校してくる生徒の服装へと目を凝らす。

一人の生徒の頭が、やたらと輝いて見えた。

よくよく見てみればその髪はきれいな銀髪で、ワイシャツも第二ボタンまで外されている。

どこからどう見ても、校則違反の格好だ。

この前真田から言われたように、声をかけて注意をしなければならない。

これが後輩ならばまだ声をかけやすいのだが、あの大人っぽさからして少なくとも先輩か同級生だ。

どう声を掛けたらいいものか、楓がわずかに口を動かして悩んでいる間に、その生徒は目の前まで歩いてきてしまった。

じっとそちらを見る楓の視線に気づいていたのか、その男は足を止めて彼女を見た。



「なんか用か?」
「えっと…あの、髪の色とボタンが」
「ああ、これか。そこにおる委員長から許可もらっとるから、気になさんな」
「え?」



それじゃ頑張りんしゃい、という言葉を最後にかけ、その生徒はそそくさと足早に去って行こうとする。

しかし正門に入る直前に真田に見つかったらしく、「上級生としての自覚を持った格好をせんか!練習にも遅刻だ!」と大声で説教する真田の声が響いた。

その声をかわし、ひらひらと手を振って去っていく男子生徒の後姿を見送った。

怖かったけれど、声をかけることができた。

自己満足かもしれないけれど、今まで話したことのない怖そうな上級生に。

まだ注意というには言葉が足りないかもしれないが、自分にとっては大きな一歩。

清々しい気持ちになりながら、楓は再び学校の方ではなく道の方へと視線を向ける。

おびえているだけでは何も始まらない。

自分が一歩踏み出してみれば、周りは変わるのだ。

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