彼と彼女の導火線 | ナノ

 放課後の教室

初めての委員会の日だ。

クラスでもう一人風紀委員になった男子生徒と共に、指定された教室へと向かう。

3年A組の前にたどり着くと、中ではまだ帰りのホームルームをやっていた。

上級生のクラスが立ち並ぶ廊下のため落ち着かないが、二人で並んで扉が開くのを待つ。

ここで自分が話し上手ならば会話が広がるのだろうが、何しろ人見知りのために話題が思い浮かばない。

加えて三年生の廊下で音を出すのも気が引けるため、じっとそこに佇むことしかできない。

もう一人の男子生徒も同じ気持ちなのか、キョロキョロと周りを見ていて落ち着きがない。

五分ほど経った後、やっと教室の扉が開かれた。

扉を開けてくれたのは、眼鏡を掛けた背の高い男の先輩である。



「お待たせいたしました。風紀委員会の用事でこちらへ?」



後輩相手にも拘わらず、やたらと丁寧な口調の人だ。

男子生徒と二人そろって頷けば、口元に笑みを浮かべてから「少々お待ちください」と静かに扉を閉めてしまった。

そして次の瞬間に、教室の中から大きな声が響き渡った。



「すまないが放課後に風紀委員会の集まりがこの教室で行われる!なるべく早く教室から出ていってくれ!」



その声に、思わず隣にいた男子生徒と楓は顔を見合わせた。

今の声は先ほどの丁寧な口調の人ではない。

楓の記憶が正しければ、真田の声だろう。

クラス全員に向かってあそこまで言い切れるとは、彼女にとってはますますうらやましい限りだ。

彼女ならおそらく、小さな声で呼びかけるどころか黒板の隅に委員会があることを伝えることしかできないだろう。

クラス毎に配られた委員会のノートを胸に抱き、再び時間が過ぎるのを待つ。

ざわざわとした声がした後に教室の前後の扉が開き、上級生たちが廊下へと流れ出てきた。

年齢は一つしか違わないのにもかかわらず、ずいぶんと大人びてみえるのはどうしてだろうか。

あらかたの生徒が出終わっただろうかと思うと同時に、扉から一人の男が顔を出した。



「よし、入れ」
「…失礼します」



真田の後に続いて教室に入れば、そこにはもう一人の人物がいた。

先ほどの丁寧な口調の先輩である。

黒板を消していた彼は、楓と男子生徒を振り返って「お待たせしました」と微笑む。

目の前に真田と丁寧な口調の人物しかいないため、会社かどこかに迷い込んだのではないかという疑惑にとらわれる。

かろうじて隣の男子生徒がいることによって、ここは中学なのだと現実に戻された。

まだ他のクラスの生徒はやってこない。

真田は若干いらついているようだが、丁寧な口調の人物は特に気にしている様子はない。



「まだまだ開始まで時間がありますから、仕方ないですよ。お二人は何年生なのでしょう?あなたは見かけたことがあるのですが、もう一人のレディを見かけたことがないものですから」
「二年です。私は転入してきたばっかりで」
「…ではお前が日向か、話は聞いている」



黒い帽子の鍔に手を掛け、真田が楓を射るように見た。

その視線に思わず恐縮するも、小さく頭を下げて事なきを得る。

内気な自分にとっては見習いたいことが多い先輩だけれど、少しだけ苦手である。

漂う威圧感があまりにも大きすぎるのだ。

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