彼と彼女の導火線 | ナノ

 放課後

放課後の図書館は好きだ。

西日が差して、室内はとても静かで、けれど屋外からは運動部の賑やかな掛け声が聞こえてきて、自分が学校に来ているのだと実感できる。

テニス部が練習しているであろうテニスコートのほうへと目を向けると、ちょうど部活の時間が終わったのだろうか、整列をしている姿が見て取れた。

今から帰る準備をして、テニスコートへ向かえばちょうどいい頃合いだろうか。

読んでいた本を閉じながら、楓は席を立ちあがる。

結局、放課後に真田と何を話そうか悩んでいていも何も答えが出なかった。

まず謝罪をしたほうがいいんだろうか。

委員会の活動中に騒ぎを起こしてすみませんでした、と。

一体その行動に真田がどういった反応を返してくるかはわからないが、何も伝えないよりは伝えたほうがいい。

こぶしをギュッと握りしめ、楓はテニスコートへと歩いていく。





テニスコートの近くまで来ると、男女問わず多くの人がギャラリーとしてやってきていることがわかった。

もう練習時間が終わったからか帰ろうとする人が多いが、クールダウンをしているのであろう部員たちに熱い視線を向ける人たちも少なからず残っている。

どこにいればいいだろう、と端っこの方で目立たないように佇んでいれば、柳生がテニスコートの中からこちらを見ていることに気が付いた。

「そこでしばらく待っていてください」と口の形だけでわかるように伝えてきた柳生に対して小さく頷けば、彼は安心したように微笑んだ。

真田は黙々とストレッチを行っているようで、目元は黒い帽子の陰になっており表情は読めない。

日が沈み始め、周りがだんだんと暗くなってくると人はどんどんと少なくなってきた。

ほとんど人がいなくなってきたところで柳生が楓に駆け寄り、「着替えてきますのでどうぞ部室の方に」と案内をしてくれる。

楓が一人きりにならないようにという配慮を欠かさない柳生の気遣いに感謝しつつ、柳生と並んで部室まで歩く。

初めて運動部の部室が並んでいるところまでやってきたが、さすが立海大付属ともいうべきか、一つ一つが防音対策がしっかりされた施設となっていた。

ここでお待ちくださいね、と施設前のベンチに座って待っていると、柳生と入れ替わるように一人の男子生徒が出てきた。

黒い髪はふわふわとはねていて、陽気に鼻歌を歌いながら出てきた彼は、楓に気が付くと納得したように手をたたいた。



「ああ、アンタか」
「?どこかで会ったことありましたっけ?」
「転校生っしょ。俺、アンタのクラスまで見に行ったんだよね」



よいしょ、と隣に堂々と腰かけながら「俺、切原赤也」と自己紹介してくる彼は何者なんだろうか。

話を聞いていると、同学年であることは確からしい。

元々人懐っこい性格なのか、それとも人の反応を気にしないのか、彼は話し続ける。

相槌を打ち続けること早五分、柳生と真田が部室から出てくると切原はベンチから立ち上がった。



「じゃあな、頑張れよ」



結局彼はなんだったのか、そう思う間もなく切原は走って去っていく。

切原によって忘れ去っていたが、今日からは真田に帰り道を一緒に歩いてもらうのだ。

何を話せばいいのだろう。先ほどまですっかり忘れていた悩みが、再び彼女の頭の中を駆け巡り始めた。

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