彼と彼女の導火線 | ナノ

 不安が残る

これからは登下校を共にしませんか、という突然の柳生の誘いに、楓は目を丸くした。

学校はもう目の前。

服装チェックは日替わりのため、楓たちの所属するA組の順番は来週回ってくる。

今日はB組の風紀委員が当番のため、先ほどの柳生の言葉通り教師同伴の形で何人かの生徒が校門脇に立って挨拶をしていた。

風紀委員に挨拶をして校門をくぐり抜けた後、楓は小さな声で問いかけた。



「柳生先輩、私の家と方向違うと思いますし……負担になりませんか?」
「それは問題ありませんよ。真田君も協力してくれる予定ですから」
「えっ、あの」
「少しばかり、楓さんの下校時間は遅くなってしまうかもしれませんが。私たちは部活がありますので」



部活が終わる時間まで待っていただけるならぜひ、という言葉を続けられ、うっと言葉に詰まる。

柳生に言われるまで気づかなかったが、やはり昨日のことがあったのだから一人で登下校というのは危ないのかもしれない。

相手の先輩たちは停学になっているとはいえ、いつかは戻ってくるのだ。

その先輩たちに再び会ったとき、自分が一人だったら。

学校内で他の人達の目がある場所があるならまだしも、登下校中に会ってしまったらどうなってしまうかわからない。

そう考えると柳生の申し出は非常にありがたかった。

申し訳ないという気持ちも同時に湧いてくるが、心配してくれている人に対して「大丈夫ですから」と断るのも同じくらい失礼のような気もする。

登校の時間に関しては楓は普段から比較的早いため、朝の部活練習にも間に合うような時間に合わせられる。

放課後も図書館で時間を過ごせば、一通り終わるころには部活練習が終わる時間になるだろう。

唯一の不安といえば、真田のことだ。



「あの、真田先輩も一緒に登下校をしてくださるんですか?」
「ええ、といっても真田君は朝は練習メニューを決める関係でかなり早いので、下校だけになります。楓さんの家は真田君の帰り道の途中のようですから」



今まで真田と二人きりで話したことがあっただろうか。

柳生とは今もわかるように二人で話すことは多くあったし、柳生自身が物腰柔らかなためそこまで緊張する必要はなかった。

しかし真田は今まで話した経験もそこまでなく、柳生と比べれば物腰が柔らかという印象は持ちづらい。

ああ、どうしよう。何を話せばいいんだろうか。

頭の中でぐるぐると話題を模索する楓の顔がわずかにこわばったことに気づいた柳生だったが、彼女の教室のある階まで来ると柔らかにほほ笑んだ。



「それでは、また放課後にお会いしましょう。図書館にいるという話でしたが、部活が終わったら迎えに行けばよろしいですか?」
「いえ、練習が終わりに近づきそうになったら私がテニスコートの方に行きます。テニス部の方は、人が多いですから」
「そうですか。それでは、また」



良い一日を、と残して去っていった柳生の後姿を見送りつつ、楓は小さくため息をついた。

真田先輩と、何を話せばいいんだろう。

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