彼と彼女の導火線 | ナノ

 掴めない支え

もう、あの委員会の活動はしたくない。

しかし、途中で投げ出すとなったらますます真田からの信用がなくなってしまうかもしれない。

初めて立海に登校した時に見た、あの堂々とした真田の姿。

自分の理想だった。

結局、上級生に胸倉を掴まれた日の授業はすべて休み、翌日から学校へ行くことになった。

しばらく朝の服装チェックは教師が同伴することになった、という柳生からの連絡もあり、人影もまばらな朝の道を行く。



「日向さん」
「……柳生先輩」



ちょうど家と学校の中間ほどまで歩いてきたとき、後ろから名前を呼ばれて振り向く。

まだ登校時間のピークには達していないため、他に人はほとんどいない。

駆け寄ってきた柳生は楓の隣に並ぶと、彼女を安心させるかのように笑いかけた。



「おはようございます。朝早くにお宅にお電話させていただいたのですが、もう登校されたという話だったので」
「すみません、わざわざ電話なんて…。でもどうして?」
「登下校を一人でされているとお話は聞いていたので、念のため誰かいた方がいいのではないかと思いまして」



ご迷惑でなければ一緒に、という柳生の言葉に楓は静かにうなずいた。

柳生には言いたいことがたくさんあった。

まずは昨日の朝、助けてもらったことへのお礼。

保健室まで付き添ってくれたことや、その間何も聞かずに黙って隣を歩いてくれたこと。

教室や担任への連絡も、柳生が全て手配してくれたらしい。

そして今日も、きっと本来の通学路ではないのであろう道まで迂回をして、自分を見守ろうとしてくれていること。

同じ委員会の先輩と後輩というだけなのに、どうしてここまでしてくれるのだろう。

ありがたい気持ちと申し訳なさが交差する。



「柳生先輩、私いろいろご迷惑をおかけしちゃって…すみません」
「迷惑だなんてそんな。日向さんはよく頑張っていると思いますよ、私はその頑張りを支えたいだけですから」



自分が今まで頑張ってきたこととはなんだろう。

柳生に支えてもらえるほど、自分が何かをしただろうか。



「真田君も同じ気持ちですよ。わかりづらいかもしれませんが」
「真田先輩も?」



突如出てきた真田という存在に、心が揺さぶられる。

立海への転入初日に見た、あの堂々とした姿。憧れのような先輩。

自分自身に対して自信を持ちたいと思っていた楓の目標を具現化したような人。

しかし自分は真田の前ではとことん悪い部分ばかり見せている気がする。



「私、真田先輩にはあきれられてばっかりだと思います」



今までも、おそらくこれからも。

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