昼間にもかかわらずカーテンを閉め切って、意図的に薄暗くした室内。

テレビ画面にはたくさんのペンギンが移動する様子が写っていて、テレビから発せられる光が辺りをぼんやりと照らす。

その目の前に設置されたソファに寄り添うようにして座っていた一組の男女は、付き合ってまだ一か月という初々しい恋人同士だった。

今日は初めて彼氏が彼女の家にやってきて、二人で映画鑑賞をして過ごす予定だった。

現在流れている映画は彼氏である宗谷が持ち込んだ動物ものの映画で、「ペンギンの一生」という邦題が付けられたドキュメンタリー映画である。

隣で食い入るように画面を見つめる宗谷をちらりと見上げた後、さつきは必死にあくびをかみ殺した。

実は昨晩、宗谷が初めて部屋に来るという緊張のためか、あまりよく眠れなかった。

部屋はきちんときれいになっているだろうか、ごはんは何を作ろう、何か花でも飾ったほうがいいだろうか。

いろいろと悩んでいて、気が付いたらカーテンの隙間から光がこぼれていた、という具合である。

本当は彼のことを知るためにも映画を一緒に楽しみたいのだが、ほとんどナレーションも流れないドキュメンタリー映画は、これでもかと言わんばかりに眠気を誘ってくる。

画面のセンターに映るペンギンもちょうどうとうとし始めているし、こちらも思わず目を閉じたくなってしまう。

いや、だめだめ、隣には冬司くんがいるんだから。

眠りたいという身体的欲求と、眠るわけにはいかないという精神が葛藤を繰り広げる中、不意に隣の彼が動く気配がした。



「え、わわっ」



ぐっと肩に手を回されたかと思うと、そのまま引き寄せられるような形になる。

もともとほとんどなかった距離がさらになくなったかと思いきや、そのまま倒れこむような形になり、気が付いたら彼の膝の上に頭を載せられていた。

え、と見上げると、テレビの画面に視線を向けたままの状態で宗谷が口を開いた。



「眠いなら、寝たほうがいい」
「でも冬司くんと映画観たいし……あっ、この映画がつまらないっていうわけでは」
「知ってる。昨日、眠れなかったんでしょう」



君らしいから早く寝るといい、とぽんぽんと頭をなでられて、あまりの気持ちよさに思わず目を閉じる。

そんなに優しい言葉をかけられて、加えて全身には彼のぬくもりがあって、眠るなという方が無理な環境になってきた。

それでも、と最後の抵抗をしようと試みたが、ソファの背もたれにかけられていたブランケットを掛けられ、あえなく失敗に終わった。

すうすうという穏やかな寝息を立て始めた彼女の寝顔に視線を落とし、満足げに口端を上げた宗谷は、頭をなでる手を止めることなく、再び映画を観始めた。





ふっと自分の意識が戻ってくるのを感じた。

今は何時だろう。何をしていたんだっけ。この温かさはなんだろう。

目を閉じたまま、ふわふわとした意識の中で次々と浮かんでくる疑問の答えを探そうともがく。

ぼんやりと目を開けると、部屋は薄暗かった。

もう朝だろうか。いや、朝にしてはちょっと明るすぎるかもしれない。

閉め切ったカーテンからこぼれる光はとても明るくて、ちょうど昼ごろかなと考える。

昼、閉め切ったカーテン、そしてこの頬の下にあたる感覚。

ハッとして頭をころんと天井に向けると、ちょうどこちらを見つめる瞳とぶつかった。



「おはよう。よく寝ていたね」
「お、おはよう……?冬司君、今まで何を……?」
「さつきの寝顔を見ていた。途中で横向きになったから、横顔になってしまったけれど」



楽しかったよ、と微笑む彼に、自分はなんと言えばいいのだろうか。

寝顔なんて見ないでと怒ろうかと思ったが、そもそも寝てしまった自分が悪いのだ。

いや、でも寝ていいと言ったのは彼のほうで。

ぐるぐると再び葛藤を始めた彼女を見て、宗谷は表情をさらに緩めた。

ああ、幸せだ。幸せな一日だ。

こんな一日をくれた君は、やはりすてきな僕の恋人だ。





END
2017/03/23

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