地方対局の帰り際、その地域の土産屋に寄る時間ができた。 団子、おまんじゅう、ドーナツ、クッキー。 和菓子洋菓子問わずに置かれたお菓子の数々は、ショーウィンドウの中で綺麗にライトアップされてキラキラと輝いているように見えた。 甘いものが大好きな彼女に、何か買って帰ろうか。 少しでも多くの種類のものを買って行ってやった方が、彼女は喜ぶだろうか。 それとも、一つのものを何個も買って行った方がいいのだろうか。 散々悩んだ挙句、端から一つずつお菓子を手に取っていくことにした。 一種類につき一つしかないが、これでたくさんの味を楽しめるだろう。 喜ぶ彼女の顔が頭に浮かび、お菓子がたくさん詰まった紙袋を持つ手に力が入った。 「わあ、ありがとう!こんなにいっぱい買ってきてくれたの?」 「ああ。ちょっと多かったか?」 「ううん、全然」 買ってきたお菓子をテーブルの上に広げれば、座布団の上におとなしく座っていたさつきが膝立ちをして身を乗り出す。 その輝いた表情を見ながら、島田も穏やかな気持ちになりながら笑みをこぼした。 ちょうど午後のおやつの時間ということもあり、二人それぞれ食べたいお菓子を手に取る。 休日の午後。 寒いこの時期の室内はほどよく暖められていて、置かれた湯呑からは湯気が立ち上る。 向かい合うように座ったさつきと島田は、それぞれのお菓子を口に放り込んだ。 「おいしい」 「ん、俺が食べたのもなかなかうまいぞ」 一口食べ、お互いに顔を見合わせて微笑みあう。 そして相手のお菓子に対してちらりと目を向けた。 一つのお菓子につき一個ずつしかないため、一人が丸々一つ食べたなら当然食べることのできないお菓子が出てきてしまう。 なるべく多くのお菓子が食べたい。 しかし、そんなことを言いだしてもいいものか。 二口目に行くのをお互いがためらい、そこでどちらからともなく笑いをこぼした。 その笑いは徐々に大きくなり、最終的には二人で大笑いになってしまった。 「お前なんだよ、さっきの目…!俺のお菓子が食べたいって顔に書いてあったぞ」 「食べたかったんだから仕方ないでしょ、開だって私のお菓子見てたよ」 「そうか?…ほら、食べたいならやるよ」 くくっと喉を鳴らして笑った後、島田は優しげな視線をさつきに向けつつ、自分のお菓子も差し出した。 目と鼻の先に出されたそのお菓子にさつきが目を丸くしていれば、「いらないのか?」と手を引っ込めてしまう。 一口分だけかじられた、あんこが見え隠れするおまんじゅう。 むっとしたように頬を少し膨らませた彼女を見て、島田はまたひとり笑う。 「もう、私の分もあげないよ?」 「冗談、冗談。ほら、口開けろ」 おとなしく口を開けたさつきにお菓子を放り込めば、先ほどの表情はどこへやら、彼女はたちまちとろけるような笑顔になる。 その笑顔を見て、島田も静かに口端を上げ、柔らかな表情を浮かべた。 やはりお菓子はたくさんの種類を買ってくるのが正解だった。 その分、彼女のたくさんの表情を見ることができるのだから。 END 2013/02/19 (1周年企画)有希様へ ←短編一覧 |