スケジュール帳に張り付けられた星形のシール、その横にはピンク色のメッセージ。 「三か月記念」と書かれた文字を見る度、口元が緩むのを感じる。 今日は彼と付き合って三か月。 学校が違う彼とは週末に会うことが多いのだが、今日は特別な日。 お互いにとって学校帰りに行きやすい駅で待ち合わせをして、放課後にデートをするのだ。 行く場所はテニスコート。 二人が知り合うきっかけとなったスポーツを、心行くまで楽しもうと思っている。 「帰りのホームルームぐらい真面目に受けなさいよね、手帳見てずっとニヤニヤして」 「え、バレた?」 「バレバレー。ま、今日のデート楽しんできなよ!それじゃあまた明日」 いつの間にホームルームが終わっていたのか、紀里の肩を叩いた友人を見送りながら彼女も帰りの準備を始める。 待ち合わせ時間まではあとしばらくある。 この時間なら多少ゆっくりしていても待ち合わせ場所まで余裕を持っていけるだろう。 抑えきれない緩んだ顔のまま筆箱や教科書を通学かばんに詰めていると、不意に隣の席の男子が窓の外を見ながら呟いた。 氷帝男子テニス部の宍戸亮。 男女という差はあれど同じテニス部所属の宍戸とは、それなりに仲の良い友達だ。 そして今、その彼の呟いた単語に反応せずにはいられない。 「手塚…?」 何か言う前に、紀里は窓に駆け寄った。 玄関から下校する生徒がよく見える中、徐々に視線を外へと向けていくとそこにいたのは間違いなく彼だった。 氷帝の制服の中に一人交じる、黒の学ラン姿。 不意に顔を上げた彼と、視線があった気がした。 眼鏡がキラリと光って、その目はすぐに見えなくなってしまったけれど。 涼しげな顔で氷帝の正門前に立つ手塚の周りはわずかに人ごみが出来ている。 これから下校ラッシュの時間になったならば、その人ごみはもっと大きくなってしまうだろう。 外の異常に気が付いたのか、クラスメートである生徒もちらほらと窓を覗きこみ始めている。 「宍戸君、また明日ね!」 「お、おう…なんか知らねえけど頑張れよ」 宍戸には何度か恋愛相談に乗ってもらったことがある。 この事態が紀里にとっても予想外であることはわかっているのだろう。 小さく手を挙げて答えてくれた宍戸に頷き返し、正門へと急いだ。 もどかしい気持ちで昇降口から下ばきを取り出し、校舎の外へと飛び出す。 近くなればなるほどに、人ごみの声がわずかに耳に入ってくる。 あの人誰なんだろう、他校生だ、かっこいいね。 自分の彼氏に向かっている興味がくすぐったくて、そして同時に嫉妬してしまう。 「国光君!」 「紀里」 「ちょっと歩こう、ね!」 彼女の存在に気が付いた手塚の腕を引っ張り、なんとか人ごみを抜け出す。 後ろを振り返っても学校の姿が見えなくなった辺りに来たことを確認し、紀里は足を止めた。 そして一方的に引っ張ってきてしまった彼を振り返る。 「ごめん、強引に連れてきちゃって」 「いや、こちらこそすまない」 時間が出来たから迎えに来た、と続けた彼の胸に思わず飛び込んだ。 来てほしくなかったわけではない。 ただ、びっくりしただけだ。 突然抱き着いてきた紀里に手塚は一瞬面食らうも、すぐに柔らかい表情で抱きしめ返す。 クラスのホームルームが早く終わり、時間ができたのは事実だった。 彼女との待ち合わせ場所にも早く着き、その場で本でも読んでいればよかったのかもしれない。 しかし、無性に不安だった。 彼女がここに来る途中で事故にでも遭うんじゃないか、と可能性の低い最悪の事柄ばかりが頭に浮かび、振り払うことが出来なかった。 彼女に早く会いたかったのも事実。 別々の学校で、平日はほとんど会うことができないことがもどかしい。 それは紀里も同じことだった。 「グリップテープ、替えたの。後で見てくれる?」 「ああ、もちろん」 普段一緒にいられない分、隣にいるときは素直な心で。 次に会う時まで、後悔しないような時間を過ごしたいだけ。 END 2013/05/12 (1周年企画)静香様へ ←短編一覧 |