在校生の時はひたすらに長いと思っていた卒業式。

しかし今、自分たちが送り出される立場となれば、一つ一つの言葉が胸にしみる。

三年間、いつも睡魔に負けて一度もまともに聞いたことがなかった校長先生の話。

年に一度見るか見ないか程度のPTA会長の言葉。

どれもこれも、自分たちに向けて送られているものだとわかると途端に大切な話なのだとわかる。

卒業式で流れる時間も、あっという間だ。



「答辞。卒業生代表、手塚国光」
「はい」



最前列に座っていた人影が立ち上がり、背筋をまっすぐに伸ばして壇上へと向かう。

その姿を見ているだけで、やはり胸が高鳴るのを感じた。

もう卒業だというのに、彼への思いも共に断ち切ることはできないのだろうか。





卒業式も終盤になり、ついに退場の時が来てしまった。

卒業生一同立ち上がるように指示され、音楽教師がピアノを弾き始める。

在校生も立ち上がり、花道に向かって拍手をしてくれていた。

拍手の音、ところどころで鼻をすする音、穏やかに流れていくピアノのメロディ。

各クラスで男女に分かれて座っていたが、花道に向かう際には男女一人ずつの二人一組のペアで歩いていくことになっている。

自分の相手が誰なのか。

それは何回も行ってきた卒業式の練習でわかっていたことだった。

しかし本番である今、自分の前に歩いていく男女が花道に向かっていくと、向こう側の男子の席から出てくるのは今までの練習とは違う人物であった。

思わず驚きで声を上げそうになったが、向こうで静かに待っている人物がちらりと目くばせをしてきたために、なんとかこらえる。

一つ前の男女が所定の位置に行ったため、数歩前に出て肩を並べた。

自分の肩が、相手の人物にとっての胸あたり。

幼馴染であった手塚と紀里が疎遠になったのは中学に入ってからで、それまでは二人は同じくらいの身長であった。

いつの間にこんなに体格差が出たのだろう。

考えてみれば、こうして二人で並んで歩くことなど小学校の卒業式以来だ。

ランドセルを背負って、最後の通学路を一緒に歩いたものだった。



「驚かせてしまったか?」
「うん。練習の時まで武田君だったから、ビックリした」



花道を抜けて体育館を出ると、同級生である卒業生たちがその場に留まっていた。

少しずつではあるが校舎に向かう集団に手塚は眉をひそめるも、特に何も言わずに自身も歩いていく。

普段ならば後ろのクラスのことも考えて早く行動するようにと注意の一つや二つはするものだが、同級生たちの思いもよくわかるのだ。

名残惜しいというその気持ち。

自分もこの校舎や、三年間通ってきた正門、テニスコート等数えきれないほどにその対象はある。

物だけではない、人に対してだってあるのだ。

隣を歩いている、彼女。

名残惜しいというよりは、後ろ髪をひかれるという思いが近い。



「久しぶりだな、紀里とこうして二人で話すのは」
「そうだね。中学に入ってからなんとなく話しづらくて…国光君どんどん学校の人気者になっちゃって気後れしちゃった」
「…そうか。三年間同じクラスだったが、ほとんど話さなかったな」
「うん、今考えたら笑っちゃうくらい」



久しぶりに会話した相手は、小学校の頃と何も変わってはいなかった。

変わったのは自分自身だったのだろうか。

本当の答えは二人とも変わったということなのだが、そのことについては誰も指摘する人はいない。

話しかけるのが気恥ずかしくて、お互いに話しかけられなかった。

思春期ならば、それも当然のこと。

それがお互いの初恋相手となれば、なおさらのことだ。

最後のホームルームが行われる教室に向かいながら、ふいに会話が途切れた。

久々に会話をしたせいか、なかなかうまく続かないのだ。

次の話題をどう切り出そうか紀里が悩んでいる間に、隣の手塚が口を開く。



「…久しぶりに二人で帰らないか?」
「え、いいの?」
「何を言っている。前まではいつものように帰っていただろう」
「…うん!」



三年間、お互いに想う気持ちは変わってなどいなかった。

教室に入る寸前、手塚は紀里に小さく口端を上げた。

また二人で歩いていこう。

休憩はもう十分だ。



END
2013/03/16

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