最初にあの子と仲良くなったのは俺だった。

いつもお昼休みの時は図書館にいて、1番端のテーブルで本を読んでいたあの子。

その表情はページを読み進める度にコロコロと変わって、とても面白い。

一人で本を夢中になって読む姿がなんだか気に入ってしまって、中一の夏から俺はいつの間にか足しげく図書館に通うようになっていた。

あの子を気に入ってから二年が経った。

全国大会が終わった翌週、俺は久しぶりに昼休みに図書館へ行った。

二年の冬に病気にかかって入院し、退院後も全国大会への士気を高めるために、お昼休みも練習しようということになっていたため、図書館に来るのは半年ぶりくらいのことだ。

あまり人気のない図書館のドアを開けると、そこには前と変わらない静かな空間が広がっていた。

そしてその端にはあの子がいて、この心地好い空間は彼女から作られているのではないかと錯覚してしまう。

その姿を見ると本当に嬉しくて、そして悲しくなった。

あの子は俺がいなくても毎日ここにやって来て、ずっと変わらない生活を続けていたんだろう。

そう考えると、胸がキュッとしめつけられた。

だからすごく嬉しかったんだ。

あの子の前の席で本を読むために、背中を向けるようにして座った時、あの子から声を掛けられたことが。



「あの」
「え?」
「図書館に来るの、ずいぶん久しぶりじゃないですか?」



初めて真正面から見たあの子の目。

いつも本に向けられていた瞳が自分に向いたことで、俺の心臓はトクンと高鳴った。

そしてその時に気付いてしまった。

俺はあの子に恋をしているのだと。

本を見つめる目がこちらを向いてはくれないかと、知らず知らずの内に思っていたことも。

それから俺とあの子は、お昼休みに図書館で二人並んで本を読むようになった。

正確に言えば、あの子は本を読んでいたけれど、俺の方はほとんど彼女を見ていたといった方が正しい。

夢中で本を読んでいた君は気付かなかったろうけど、俺は君と同じくらい真剣に君を見ていたよ。

お昼休みの終了と、次の授業の始まりを告げる予鈴のチャイムが俺は憎かったのと同時に嬉しかった。

チャイムが鳴って、図書館から教室に向かうまでの間、君の視線は本じゃなくて俺に向けられていたから。

彼女はブン太や仁王と同じクラスで、俺はいつも彼女を送り届けてからお昼休み後の授業に向かった。



「なあなあ、幸村君と里見って付き合ってんの?」
「いや、付き合ってないけど。どうして?」
「んー、だって最近昼休みが終わりそうになると一緒に俺の教室まで来るじゃん。結構噂になってんだぜぃ?」
「ああ、その話は俺も聞いている。ついに精市に彼女が出来たのかと思っているんだが」
「か、彼女などという存在は中学生には必要ないだろう、たるんどる!」
「まったく固いなあ、弦一郎は。そうだ蓮二、今度彼女に本のオススメをしてくれないかな?読みたい本が決まらないらしくて」



部活帰りの何気ない会話で言ってしまった一言を、俺は今までと変わらず、これからも後悔していくに違いない。

俺はあまり読書量が多い方じゃない。

たしかに入院中は本をよく読んでいたけれど、その本を薦めると、彼女はあっという間に全部読んでしまった。

だから、蓮二なら彼女の悩みに最適だと思ったんだ。

読書量も俺とは比にならないし、あの子が知らない本もたくさん知っているに違いなかった。

あまりあの子と他の男を近付けたくはなかったけど、あの子の笑顔が見たくてつい蓮二にお願いしてしまった。

それをいまだに俺を苦しめているなんて、当時の俺は想像もしなかっただろう。



「幸村君」
「ああ、里見さん。………蓮二ならもうすぐ来るよ」
「え?え!?なんで蓮二君を待ってること」
「フフ、顔に出てるよ。君は一年生の頃から読書中も感情を顔に出してたから」
「紀里、待たせたな。…ん?ああ、精市か。少し部活の件で相談したいことがあるから後でメールする」
「ああ、わかったよ。それじゃあね」
「幸村君、また明日」



俺はなんて馬鹿な男なんだろう。

中学校生活の間ずっと恋してきたあの子と、自分の親友が二人並んで帰っていく姿を見送るだなんて。

本当は、今すぐにでも蓮二と場所を入れ代わりたいのに。

君が言うほど、俺は心が綺麗じゃない。

『お昼休みに図書館にいる綺麗な男の子』という俺の位置付けは、君の中で揺らぐことはなかった。

ああ、どうして俺じゃダメなんだろう。

今すぐこの気持ちを伝えたいけれど、伝えたら君の俺に対する態度は変わってしまうんだろう。

そして蓮二も同じように苦しんでしまう。

だから俺はあえて言わないでおくんだ。

1番愛しいあの子と親友を守るために。



END
2011/11/24

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