青春学園には写真部というものがある。 校舎裏に咲く小さな花、伝統感じさせる校舎、校長先生の寝顔。 日々様々なものが撮られ、保管されていく写真たちの中に一際厳重に保管されたものがあった。 パソコン上のフォルダ名は「生徒会用写真」。 しかしその中身は、全国的にも人気な男子テニス部の練習風景やら授業に取り組む様子が見られる写真データがバッチリ入っていた。 いつ誰がデータを盗み出そうとするか分からない、写真部で最も大事に扱われているフォルダである。 ちなみに現像はほとんどしていない、現像するとどこで盗まれて法外な値段で売り捌かれるか分かったもんじゃないからだ。 「いい?練習後のクールダウン中の部員たちの様子を撮ってくること。分かった?」 「了解です」 「ういっす」 雑誌社なども許されていない、練習後にコートに立ち入って写真を撮る権利。 同じ学校なのだから、と青学写真部だけは撮影を許可されていた。 部長のテキパキとした指示に写真部員たちは夕焼けの中、一斉に散らばっていく。 …といっても、部長を含めても三人しか部員がいないのが実情だ。 「桃城君たちのところは大ちゃんが行ってるし、大石先輩たちへは部長が行ってて…」 デジカメを手に持ったまま周りを見渡し、自分が撮るべき相手を探す。 そして一瞬にして目が止まった。 一人静かにコートを出ていく後ろ姿。 絶対にあれは手塚先輩だ…! 分かった途端に心臓が跳びはねるように動くのは、どうしたらいいんだろう。 とにかく追いかけなければ、と紀里も手塚と同じルートを辿りコートから出た。 「手塚先輩、お疲れ様です」 「ん?ああ、里見か」 手塚の後を追っていけば、着いたのはコートからは少し離れた水道。 手塚以外に人はおらず、後ろから遠慮がちに紀里が声を掛ければ、手塚は振り返って紀里を見る。 そしてまたすぐに水道へと向き直り、眼鏡をカタンと置き、蛇口を捻った。 手塚が顔を洗う間、沈黙が続く。 紀里の目からは手塚の背中しか見えない。 緊張を隠しきれない紀里がデジカメを手先でちょんちょん動かしていると、タオルで顔を拭き終わった手塚が言った。 「いつも写真、写真と大変だな」 「いえ、そんなことないです。写真好きですから」 「…いや、竹中がうるさいだろうと思ってな」 「ああ、それはあるかも……え?」 自分の部の部長がとやかく言う姿が思い浮かび、苦笑しながら手塚の顔を見て目を見開く。 思わず疑問の声まで出してしまうほどの衝撃。 紀里を振り返った手塚は、その様子に訝しげに目を細めた。 「どうした、里見」 「いや、あの…眼鏡かけてないなと思って」 「まあな、顔を洗うときは外すだろう?」 「そ、そうですよね…」 いつも眼鏡をかけている姿しか見ていない私にとっては、新鮮とかそういうレベルじゃない。 眼鏡取ってもカッコイイなぁ、なんてぼんやり思ったりしながら、無意識の内にカメラを構えていた。 そして勝手に口が動く。 「手塚先輩、写真撮ってもいいですか?」 「ああ、いいが…少し待ってくれ、眼鏡を」 「いや、そのままでいいんです!」 「ん?」 うわぁ、恥ずかしい。 なんか自分で言ってるのにすごく恥ずかしい。 今日の自分はいつもより饒舌らしくて、思わずこんなことまで口走ってしまっている。 「その…眼鏡無くても手塚先輩は十分カッコイイですから!」 「…ありがとう」 いつになく優しい笑顔で、手塚はふわっと表情を緩める。 紀里はその表情を見事に捉えることに成功した。 「まだその写真を持っているのか?」 「だって国光先輩が1番かっこよく撮れた写真なんですもん!」 その写真に劣らない優しげな表情を浮かべた手塚を隣に、紀里は写真を見つめて微笑んだ。 (by 物書きさんに10のお題) END 2011/04/30 ←短編一覧 |