たしか午後のホームルームが終わって、これから部活という時間帯だったと思う。

不思議なことに、全体的にたしかな記憶ではないのだけれど、部活のために昇降口に向かったことだけははっきりと覚えている。

なるべく早く行かないと…―

その一心で、自分の下駄箱を開けたときだった。



「………でさ、亮も知ってるでしょ?」
「あー、アレか」
「そうそう」



自分が屈んで開けている下駄箱を挟んだ正面から、知っている声が二つした。

この声は…紀里さんと宍戸さん?

ゆっくりとバレないように下駄箱に手を掛け、上から覗きこむようにして見れば、案の定思った通りの二人がいた。

その姿を見るだけでチクン、と胸が痛む。

二人で楽しそうに何を話しているんだろう。

二人が幼なじみだってことも分かってるのに、このもやもやした気持ちは消えない。


…紀里さんは俺の彼女なのに


その思いばかりが強くなって、バレない内に慌てて頭を引っ込めた。

背の高い部類に入る俺が立っていたら、すぐに気付かれてしまう。

今度は下駄箱から靴を取り出し、靴紐を直すフリをして屈みながら二人の話を聞く。

周りの他の生徒の声が、少しうるさく感じてしまう。



「だからね、私も対抗して何かを着けようかと思って」
「ふーん…お前もネックレスにすんのか?」
「うん、ネックレスに対抗するなら私もネックレスでしょ」



ネックレス、の単語に何度となく靴紐を結び直していた手が止まった。

そして途端に、自分の首元にある『それ』が重たいものに感じた。

もしかして紀里さんと宍戸さんの話題は……俺?



「わざわざネックレスまで買うか、普通」
「だって長太郎が誰から貰ったのか教えてくれないし。それならせめて私も何かネックレス着けて長太郎とお揃いにしようかな、って」
「…わっかんねーな、女って」
「いーの、いーの。あ、せっかくだから亮、一緒に買いに行かない?お揃いにしないかね」
「はあ?」



ビク、と自分の体が無意識に反応した。

だんだんと二人の声は遠ざかっていって、俺もゆっくり立ち上がった。

そして自分の首に掛かるネックレスを握りしめる。

宍戸さんと紀里さんが同じネックレスを買う…?

嫌だ、そんなこと。

俺の中でドロドロとした気持ちが生まれ、顔もだんだんほてってきている気がする。

とにかくあの二人を追い掛けなくちゃ。

慌てて手を伸ばして走り出す。





「……え?あれ?」



ふと、そこで意識がハッキリした。

目の前にはやっぱり、さっきと同じように伸ばした手。

しかしその先に見えるのは見慣れた天井。



「夢…?」



ポスンとベッドの上に手を落とし、俺は安堵のため息をついた。

それでも不安な気持ちは広がっていく。

もしかしたら本当に紀里さんは…





「紀里さん、これ着けてください」
「え?あ……」
「お揃いです!」



数日後の夕方、一緒に帰るときに、俺は紀里さんに『とある箱』を差し出した。

もちろん中身はネックレス。

紀里さんは俺のものだと証明しなくちゃ。

宍戸さんにも誰にも、彼女は渡さないために。

(by 物書きさんに10のお題)



END
2011/02/18

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