つらい、つらい、つらい。

恋愛はつらい。

成功者なんて限られた一部に決まってる。

隣で白い息を吐きだしながら、彼もそう言った。



「…やっぱり跡部なんやて」
「…そうなんだ」



真夜中に、公園で二人きり。

お互いに防寒対策はバッチリ、距離も近い。

なのに心は弾まない。



「つらいなぁ、改めて『他の男が好きなんや』って言われるんは」
「たしかにつらいかも、うん」
「アホ。紀里は好きな人まだおらへんのやろ?」



恋愛はつらいんやで、と隣で零す彼の横顔を見た。

知ってる、恋愛のつらさなんて。

私もたった今、恋愛のつらさを痛感してるところだし。



「今日流れ星やったんやなあ…俺の気持ちもどっかに流れればええのに」



空を見上げ、独り言のように呟く彼の言葉に、私は何も反応しなかった。

私の気持ちもどこかに流れていけばいいのに。

どうして自分のことなのに、思い通りにならないのか。



「あ…願い事でも言っとけばなんか変わるんやろか」
「せっかくだから言っときなよ、失恋記念に!」
「紀里のくせに生意気やん」



『失恋記念』と大きい声で言ってやれば、侑士はグリグリと頭を挟んできた。

よかった、ちょっと笑顔になった。

彼女のことは、まだ忘れられないんだろうけど。



「んー…何にしよか…『跡部から彼女奪えますように』にしとこか」
「諦め悪い男は嫌われるよー?」
「ええやん、ええやん。紀里は何にするん?」
「うーん、じゃあ…世界平和?」
「規模デカすぎやろ」



そう言って楽しげに笑う侑士の胸には、まだあの子の姿だけだろう。

そして私はきっと『仲間』の部類に位置付けられている。

そのポジションが不服だなんて言ったら、侑士はどんな顔をするんだろう。

いつもの飄々とした笑顔で上手くかわすんだろうか。

最後に一回、私は言った。



「恋愛はつらいね、侑士」
「おん。でも俺は諦められへんわ、紀里も早く相手見つけなヤバいで」
「あー、そうだね…ちゃんと結ばれる相手見つけなくちゃ」
「俺に対する厭味かいな」
「…侑士と自分に対しての厭味だよ」



消えてくれない、貴方への恋心。

(by 物書きさんに10のお題)



END
2011/01/17

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