CAN YOU KEEP A SECRET?【7】-@


「もうたくさんだ!構ってられるか―僕らは出ていく!!行くぞ、ハーマイオニー!」
「ロン、待って!嫌、だめよ、そんな、ハリー!」

怒ったロンは強引にハーマイオニーの腕を掴み、テントの出口へと引きずっていく。ハリーは出来る限りの冷たい声で言った。

「いいよ。僕一人でやる・・・二人とも好きにすれば?さっさと行きなよ。さよなら」

言いたくない言葉に心が軋んだ。身体に何か鋭いものが刺さって、そこからどろどろしたものが流れ出ている気がした。胸の奥底では我が儘な自分が、やめて置いていかないでと情けなく泣き叫んでいる。ハリーはそれを無理矢理押し込めて、二人の親友に別れを告げたのだった。少なくともその時は、それが二人を安全なところにやる最善の方法だと思った。

(・・・あの二人はどこか遠いところで幸せになるべきなんだ。僕が邪魔しちゃいけない)


「―これで、よかったんだよね・・・」

誰もいなくなったテントで、ハリーはぽつりと呟いた。


*


二人が出て行ってから、何日が経ったのだろう?ハリーは一人さまよい歩いていた。どうにかして分霊箱を見つけ出さなければならないが、やはり手がかりは無く、途方に暮れる日々が続いていた。当然、以前のように誰かと話すこともなく、ハリーはここしばらく、自分の発する声を聞いていなかった。

「(・・・いつまで続ければいいんだろう)」

首から下げたロケットは何をやっても壊れずに、ただ持つ人の気力だけをじわじわと削り取ってゆく。ハリーはテントの側にある大きな木の下に膝を抱えて座り、ぼんやりと湖を眺めていた。夕陽がゆっくりと沈む。

「(明日になれば何か変わるのかな・・・・)」

―もう全てに疲れてしまった。ハリーは無意識のうちに目を閉じた・・・。


何かが頬に張り付く不快な感触で目が覚めた。それがびっしょりと濡れた自分の髪であると気付くのに、少し時間がかかった。冷たい雨が降っている。何時間眠ってしまったのだろう?辺りは真っ暗だ。ハリーの身体はずぶ濡れで、すっかり冷えきっていた。

「(早く、中に入らなきゃ・・・)」

少し身じろぐだけで頭はガンガンするし、芯から凍えてしまって身体に力が入らない。ハリーはそれでもなんとか立ち上がると、あることに気付き、さっと顔を青くした。

「(保護呪文が切れかかってる、)」

急いで呪文をかけ直そうとするものの、こんな状態では杖を持つこともままならない。早くしないと誰かに気配を悟られてしまう―しかし、遅かった。人が近づいてくる気配がする。もうすぐそこまで来ているようだ。―逃げるのは間に合わない。ハリーは覚悟を決め、何とか杖を握り、その何者かと対峙した。

「―・・・見つけた」

それは死喰い人でも人攫いでもなかった。真っ黒なフードの奥で、見慣れた赤い目が光る。背の高いその姿に、ハリーの身体が震えた。

「ぁ・・・」

だがハリーの身体はそこで限界を迎えた。ヴォルデモートの勝ち誇ったような笑みを最後に、ハリーは意識を手放した。




**


ヴォルデモートは少し困惑していた。こちらが攻撃を仕掛ける前に、ハリーが崩れ落ちたからである。顔を覗き込んでみると、呼吸は荒く、苦しげに眉が寄せられている。かなりの高熱のようだ。―まあいい、ヴォルデモートは唇を吊り上げた。他に仲間もいないようだし、連れ去るには好都合である。彼は華奢な少女の身体の下に手を差し込み、持ち上げようとする。と、ハリーの手が弱々しくローブの胸元を掴んだ。

「・・・ひとり、に、しないで・・・」

雨音に掻き消されてしまいそうな儚い声だったが、ヴォルデモートの動きはぴたりと止まった。彼はそのままの姿勢で少し逡巡したが、少女の身体を抱き上げると、中途半端な保護呪文を閉じ、テントの中へと入っていった。

そっとベッドに横たえてやると、ハリーの表情が少し和らいだ気がした。最後に会ったのは魔法省だったから2年振りだろうか。あの時よりも少し髪が伸びている。ヴォルデモートはハッとして、ハリーの髪に触れた指を引っ込めた。―こんな時に、何をやっているのだろう。

「(・・・だが別に、こいつを殺すのは、回復してからでもいい)」

―こんな状態では殺す楽しみが無い。ヴォルデモート卿はフェアだ・・・こいつに意識があれば、殺されるその瞬間まで、絶望と憎しみの入り混じった目で、こいつは俺様のことだけを見ていられる。他の奴らにもより大きな絶望を味わわせることができる。その方が力の差というものを分からせることができるだろう―だから、わざわざ運んでやったのはそういうことなのだ。ここに居ることは誰も知らない。唯一の目撃者であるこいつも今は意識が無い。俺様がどうしようと、俺様の自由だ・・・誰にも邪魔はさせない。

―だから、今だけは。


ヴォルデモートはベッドの枕元に水の入ったグラスを持ってくると、ハリーの胸元で光るものに気付いた。それはスリザリンのロケットだった。


「(よりによってこれが此処にあるとはな・・・まあ、予想はしていたが)」


細い鎖を彼女の首から外し、ロケットを強く握ると、それは手の中でどくんと脈打った。ヴォルデモートはしばらくそれを見つめていたが、やがて立ち上がると、ロケットを持ったままテントの外へ出た。


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