狡猾サンドリヨン【4】-@


「(どうしよう・・・)」

間もなくダンスパーティーが始まるというときに、ハリーは階段の物陰に隠れ、一人途方に暮れていた。

主な原因は3つだ。

一つは、綺麗に着飾った他の女の子達に比べて、どうも自分は見劣りするような気がすることだ。ハーマイオニーはハリーをとても綺麗だと言ってくれたが、ハリーは彼女の方が自分の何倍も美しいと思う。ちなみに今着ている白地に翡翠色のチュールが折り重なった繊細なドレスは、母のドレスをモリーがアレンジしてくれたものだ。が、ドレスの透き通るような美しさに、みすぼらしい自分はとても釣り合っていない。これではドレスが可哀相だ。

二つ目は、ハリーのパートナーであるディーンが、朝食の席で何者か(噂によるとスリザリン生だとか)に毒を盛られ、とても歩けるような状態ではなくなってしまったことだ。そして先程パーバティから聞いたのだが、大広間ではハリーをパートナーにしようと目論むゴリラのような(失礼)上級生が鼻息荒くハリーを探しているらしい(おそらくその人が毒を盛った犯人だろう)。鈍感とか危機感がないだとか散々言われるハリーだって一応年頃の女の子だ。顔も見たこともないような、しかも下心丸出しの男と踊るのはさすがに気が引ける。というかはっきり言ってしまえば嫌だった。ハリーははあ、とため息をついた。これでは広間に降りて行けない。

そして三つ目。今は三校対抗魔法試合中である。つまり、多くの人々が代表選手に注目するということだ。ダンスパーティーでは一番に踊らなければならない。しかも、ハリーにとって最悪なのは、もう一人の女性選手があのフラーだということだ。似合わないドレスに身を包み、一人で踊る自分と、同性でも見惚れるほどの完璧な美しさで、華麗にダンスを踊るフラー・・・周りの目にはどう映るかなんて、考えたくない。きっと笑い者になるだろう。

だがしかし、いつまでもここに隠れている訳にはいかない。ざわめきが大きくなってきた。そろそろパーティーが始まるのだろう。誰かが探しにきて見つかり、無理矢理連行されるよりは、潔く自分から出て行く方がまだ恥ずかしくないはずだ(と、ハリーは自分に言い聞かせた)。

ハリーは意を決して、物陰から出て、大広間へと続く階段の上に立つ。と、ハリーの周りが一斉に静かになった。皆がハリーを食い入るように見ている。

「(・・・ほら、やっぱり似合わないんだ)」

大広間の扉の前に、マクゴナガル先生と他の代表選手達が既に集合しているのが見えた。いないのはハリーだけのようだ。早く行かなければ!

階段を一段下りるごとに、誰かの溜息が聞こえる。ハリーは皆が呆れているのだろうと思っていたが、実際は花開いたように美しく、可憐に着飾った彼女に嘆息しているのだった。ハリーは周囲の無遠慮な視線に耐え切れず、頬をほんのり赤らめ、そっと目を伏せる。もちろんハリーは気付かないが、そんな些細な仕草でさえ、周囲を魅了するのは十分なものだった。その時だった。誰かが階段を上がり、こちらへ方に向かってくる気配がしたのは―ハリーは思わず足を止めた。

「(ああ、あのスリザリンの人が来たんだ、きっと・・・怖いけど、仕方ないや)」

俯くハリーの目に、男性のブーツの先が映る。そしてその人は、マグルの映画のワンシーンような完璧な仕種でひざまずき、突然ハリーの手を取り、顔の前に捧げ持った。ほんの一瞬の間に起きたことだったが、その男の動きの全てが流れるように美しく、また洗練されたものだった。そしてなぜか、聞き覚えのある声が聞こえた。

「―私と、踊っていただけますか」

まだ現状を飲み込めていないハリーは、予想外のその姿にさらに衝撃を受けた。それは噂の野生的なスリザリン生ではなかった。烏の濡れ羽色の髪、どこか冷たい印象を抱かせる端整な顔立ち、そして何よりも印象的な、血のように赤い瞳―・・・だがしかし、日記の"彼"ではない。少なくともその人は、ハリーより2、3は年上に見えたし、そもそも日記はハリーがこの手で破壊したはずだからだ。そして何より目の前の男が纏う雰囲気は長年過ごしたあの蛇とそっくりだった。ということはやはり、ありえないが、思い当たるのは一人しかいない。

「・・・ヴォル?」

呆然としたハリーが小さな声でそう呟くと、『正解』と言わんばかりに彼の唇が綺麗な弧を描き、ハリーの手の甲にそっと唇を押し当てた。




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