思い出は色褪せぬまま
6話:終
『約束の日を楽しみにしているから……』
そう言って微笑んでくれた優しい恋人は、誰にも手の届かない所へ行ってしまった。
追い掛けたくても追い付けない、遠い遠い場所。
その時の事を思い出したのか、一護は静かに瞬きを繰り返した。
辛くない、と言えば嘘になるだろう。
どれだけ月日が経とうと、喪失感に眠れない夜もある。
けれど、愛しい彼の事を想うだけで、とても優しい気持ちになれるのも本当だった。
僅かな間だったけど、一生涯の恋をした、と言えるだけの自信と自負は自分にあるから。
そして彼と一緒に追った道があるから。
だから彼との事を思い出すだけで、自分は幸せになれる。
それだけで満たされるのだ。
単なる強がりではなく。
思い出は今も、黄金色の丘に吹き渡る風の中で優しく揺れていた。
そしてその中で、雨竜はいつでも昔と変わりなく、綺麗に微笑んでいるのだった。
一護を虜にした、あの瞳で。
「……また、な」
踵を返しかけ、ふと思い立って振り向けば、零れるように花開く向日葵の中に佇む、白い幻影が一護の視界を奪った。
手を伸ばせば触れそうな程に。
けれど、ゆっくりと瞬きをすれば、すぐに世界は現実へと戻る。
一護は彼を置いてけぼりにしたつれない恋人に、そっと笑いかけた。
手を振れば、どこからかその涼やかな笑い声が聞こえるような気がした。
それに見送られ、一護は漸くその場を離れる。
見上げれば、あの時と同じ――教室をオレンジに染めた――真夏の夕陽。
雨竜が見る事の叶わなかった大輪の向日葵は、今年も以前と何ら変わる事なく、丘一面に咲いていた。
きっと来年も、その次の年も、ずっとこの景色は変わらないだろう。
自分の想いと共に。
自分が彼を想っている限り。
向日葵はきっと永遠に咲き続ける。
《終わり》
大切な人を失っても、その人と過ごした思い出はずっと心の中で生き続けるのだと思います。
2007.07.15end
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