第7問


午後を迎え、ついにDクラスとの試召戦争が始まった。

「雄二、今の戦況はどんな感じだ?」
「ああ……斥候の話だと、そろそろ先攻部隊が―――って、お前何してんだ!
 お前は当面補充試験って言っただろ!」

千秋は諸事情で全科目0点なので、放課後までは瑞希と同じくずっと補充試験を受ける予定になっていた。
「今来てる先生の補充試験は、もう全部受け終わったんだよ」
開戦から1時間半程過ぎた頃。
FクラスとDクラスの怒号が廊下に飛び交う中、千秋は総大将である雄二のいるFクラス本陣にやって来ていた。
「終わっただぁ?4科目は先生呼んでただろ?」
いくらなんでも早すぎる、と雄二。
テストは1科目1時間だから、そう思うのも仕方ないのかもしれない。
「俺はお前の言う通りちゃんとやったぞ」
「……じゃあ聞くが、何点だ?」
「古典21、化学13、数学8」
「おい、それのどこが『ちゃんと』だ!!?」

「で、日本史が136点」

「……。Cクラス上位レベルじゃねぇか」
「うん、正直俺も驚いてる」
普段は良くても80点台後半だから、軽く1.5倍は越えている。
「サンキュ、雄二の作戦のおかげだよ」
礼を言うと、雄二は気まずそうに視線を逸らした。
正面から褒められ慣れていないからなのか、どうやら照れているらしい。
「いや……これはお前自身の力だ」
136点なんて点数が普通に出る時点で分かるだろうが、文月学園のテスト方式は少し特殊だ。
時間には1時間と制限があるが、問題数は制限がない。
そのためテストの点数には上限がなく、時間の限りは能力次第でどこまでも成績と召喚獣の力を伸ばすことができる。
「お前じゃなきゃ、そもそもあんな方法は通用しないんだよ」
雄二の立てた作戦とは、そのテスト方式を逆手に取ったものだった。

『分からない問題は考えずに飛ばせ』

実に単純だが、時間制限あり・問題数制限なしという条件において、これは最も効率的な方法といえる。
勿論、学園側もそれは分かっているから、テストには『後の問題ほど難易度を高くする』という措置がなされている。
しかし、その措置がほんの一部の科目においてだけ、千秋には通用しないのだ。
「日本史でその点数だと……世界史はかなり期待できそうだな」
「ああ、世界史はいつもなら150点はいくからな。
 日本史より断然題材になってる作品も多いし」
「お前のその知識の深さには感心するが……友人としてはその集中力をもっと別のことに生かせと言いたくなるな」
「余計なお世話だっつの。
 大体、俺はゲームとか小説とか以外の興味ないことには全然集中できないんだから」
得意科目の世界史・日本史の基礎でも分からないことは全く分からない。逆に、知っていることはどこまでも知っている。
だから、問題になるのは内容だけで、難易度は全く関係ないのだ。
ちなみに、他の科目は下手をすると明久よりも酷い。
しかも今回、集中力温存と時間短縮のために本当に取れる問題しか解かなかったから、日本史以外はいつも以上に低い、カスみたいな点数しか取れていない。
「とにかく、だ。本当にありがとな雄二」
「感謝される程のことじゃねぇよ」
「またまた〜、照れちゃって」
「……照れてねぇよ。
 大体分かってんのか?その気になれば、振り分け試験前に教えてやることだってできたんだぞ?」
「あー……そう言われればそうか」
「だから礼は必要ねぇ。
 俺はこの試召戦争に勝つ為に、お前の点数を上げる方法を考えてやったんだからな」
分かったか、と偉そうにふんぞり返る雄二に、千秋は笑う。
「やっぱり」
「何がやっぱりだ。つーか笑うな気色悪い」
「お前、試召戦争するって決めてからこの方法思い付いただろ」
「なっ……!」
前からその方法を思い付いていて黙っていたのなら、『試召戦争に勝つ為に考えた』という表現はおかしい。時系列が逆だ。
驚き目を見開く雄二に、千秋は自分の考えが正しいと確信する。
にやにやと笑う千秋に、雄二は舌打ちする。
「ま……どうせ俺が思い付いて教えてやってても、お前はFクラス入りしてただろうけどな」
「……う、お前それ誰から聞いた」
今度は千秋が顔を顰める番だった。
千秋が振り分け試験を欠席してしまったあまりにも情けない理由を、どうやら雄二は知っているらしい。
「当然、明久に決まってるだろ」
「……(あの馬鹿、後でシメる)。姫路さんにだけは、絶対言うなよ」
「それは、今後のお前の頑張り次第だな」
「げぇ……」
「世界史は当然だが、他の科目ももう少しやる気を出せ」
得意科目に集中するために他の科目は多少手を抜いてもいいとは言ったが、いくらなんでも抜き過ぎだ、と雄二。
「普段全然勉強しないのに、いきなり何時間も集中できるかよ……」
「そんな結果じゃ、得意科目使う前に戦死しちまうだろーが」
「大丈夫、得意科目以外だったら召喚してから速攻でフィールド外に逃げるから」
「威張りながら言うな……」
試召戦争のルールの一つに、『相手から戦いを申し込まれた時に召喚に応じないと、戦闘を放棄したとみなし戦死扱い(補習室送り)にされてりまう』というものがある。だが、召喚した後逃げてはいけないというルールはない。これはその穴を突いた反則ギリギリの奇策だった。
「はぁ……とにかく、さっき世界史の田中を呼んでおいたからお前は早く補充に戻―――」
「…………伝令」
「土屋……?」
突如目の前に登場した忍者姿の少年を、千秋はぽかんと見つめる。

「…………先攻部隊が限界、前線の決壊間近」

日頃の盗聴・盗撮で培った能力を生かして斥候の役割を買って出ていた彼は、何故かそんな奇妙奇天烈な格好をしていた。


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