第3問


「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」
「…………土屋康太」
明久が入ってきた直後に担任の福原先生もやってきて、クラス皆で自己紹介をすることになった。
横の列にいる秀吉、土屋と知っている者の自己紹介が続く。
他にも何人か見知っている者がいたが、流石に全員知っている訳ではない。
まぁどうせ、この自己紹介で全員の名前なんて覚えられる訳もないのだから、と適当に聞き流していると、いつの間にか千秋の番になっていた。
「吉井千秋です。部活には入ってません。
 あ、俺こんな格好してますが、生物学上は一応女なんで。よろしく」
千秋が立ち上がってそう言うと、クラス全体がざわめいた。
どうやらこれだけ男ばかりだと、千秋のような存在でも女子に分類されるらしい。
「えーっと、後はなんだろ……趣味?趣味はゲームと、後は―――……

 そこにいる可愛い秀吉で遊ぶこと、かな」

「お、お主いきなり何を言い出すのじゃ!!?」
ニヤ、と意地の悪い笑みを浮かべて揶揄うと、予想通りの反応が返ってくる。
「ほらやっぱり。凄く可愛い」
「ワシは男じゃぞ!女扱いするでないっ!!」
秀吉が顔を真っ赤にして詰め寄って来たので、『可愛い可愛い』と頭を撫でてやるとますます顔が真っ赤になる。まるでリンゴのようだ。
「(もしやあれが噂の……!)」
「(ああ、間違いない。見た感じ男装女子と只の男子だし)」
「(同じ学年だと聞いていたが……まさか同じクラスになれるとは!)」

『文月学園名物、異性装コンビ……!!』
「ワシは男じゃぁぁあああっ!!!」

クラスメイト達の息の合ったコメントに、秀吉は絶叫する。
「おいおい、落ち着けって秀吉」
「これが落ち着いていられるものか!ワシは男なのじゃっ!!」
「まぁ待てって。異性装コンビってことは、俺が男装で秀吉が女装ってことだろ?
 秀吉はちゃんと男として見られてるってことだ」
「む、なるほど……なら良いのじゃが……」
あの表現だと女装がデフォルトと言っているようなものだし、見る限り、クラスメイトたちは秀吉のことをそうは思っていないようだけれど。
『男として見られている』という言葉が効いたのだろう。
秀吉は途端に大人しくなると、自分の席に戻った。
「んじゃ、まぁそんな感じで。
 あ、あとこのクラスにいる吉井明久とは、苗字同じだけど全然関係ないんで、そこんとこよろしく」
これで終わると見せかけて、ついでにまたもや同じクラスになってしまった従兄妹を揶揄っておく。
去年経験して分かったのだが、こうしておかないと後々説明するのが面倒になるのだ。
案の定、後ろの方から聞き慣れた悲鳴が聞こえてくる。
「ちょっと!?全然関係なくないよね!!?
 僕たち従兄妹でしょ!!?」
「なんか声が聞こえますけど気にしないでください皆さん。あれは幻聴です。
 んじゃ、とりあえず1年間よろしく」
「幻聴って酷いよ千秋っ!!」
「吉井君、静かにしてください」
「先生!?ここで注意すべきなのは千秋の方でしょう!?」
「それでは、次の人自己紹介を始めてください」
「無視!?新しいクラスになって間もないのにもう僕こんな扱いなの!!?」
「吉井君」
「……うぅ、すみません」
よし、これで自分と明久との間柄の説明も、クラスでの彼の立ち位置もばっちりだろう。
しょぼくれる明久を見て少し笑いながら、千秋も席に着く。
皆の注目が次の生徒に移るのを確認してから、周囲に聞こえないように隣に囁いた。

「……で。土屋はなーにさりげなく盗撮してんだ」
「…………(ブンブン)」

勢いよく首を左右に振る彼の手には、しっかりとデジカメが握られている。
「嘘付け。真っ赤になった秀吉の写真、ばっちり撮ってただろ」
「…………そんなことはない(ブンブン)」
「今なら特別に、昼休みに缶ジュース1本で手を打とう」
「…………くっ……分かった……」
土屋はその趣味と実益を兼ねた稼業で十二分に潤っている筈だから、これくらい何の問題もないだろう。
「つーか授業も始まる前からそんなんで大丈夫かよ?
 本当に隠すつもりあるのか?その性癖」
「…………一体何の話だ」
「……」
だらだらと冷や汗を垂らしながら、すっとぼける土屋。
友人の中で彼の性癖を知らぬものなどいないというのに、土屋自身は未だに千秋たちにもそれを隠そうとする。いい加減に無駄だと気付けばいいものを。

「―――です。海外育ちで、日本語は会話はできるけど、読み書きが苦手です」

「……女子の声?」
それから暫くは男どもの声が続いていたが、珍しく聞こえてきた高めの声に千秋はほっとする。良かった、秀吉以外にも癒しがいて。
「…………島田」
「ホントだ。美波もFクラスか」
千秋が声の主を確認する前に横から答えが返ってくる。
流石は土屋と言うべきか、クラスの女子はしっかりと把握しているようだ。
視線の先には、土屋の言う通り赤茶色の髪の少女がいた。
ぴょこぴょこと揺れるポニーテイルと、それを結わえる大きな黄色いリボンが特徴的な彼女の名前は、島田美波。
表情や口調から勝気そうな印象だが、その奥にはとても優しくて面倒見が良い一面もあることを、千秋は知っている。
もっとも、その優しさや好意を一番受けている筈のおバカは、それに全然気づいていないのだけれど。

「趣味は、吉井明久を殴ることです☆」

「またやってるよ……」
「…………素直じゃない」
「じゃのう」
まぁ、こういう素直になれないところは、明久に誤解を受ける原因の1つかもしれない。
美波の自己紹介も明久を適当に弄って終わった。
その後、明久は自己紹介で見事に外れたジョークを飛ばし、Fクラスでの地位を確固たるものにしていた。
40数名(全員男)に野太い『ダァァリィ――ン』の大合唱をさせられる者など、後にも先にも明久以外にいないだろう。というかいて欲しくない。


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