第2問


学生たちの学力低下が嘆かれる昨今、教師陣曰く『最先端』な技術を筆頭に、様々なことを試験的に行う世界的に注目されている進学校、文月学園。
この学園では、振り分け試験結果で厳しくクラス分けがなされる。
学力の高い勝者にはより良い設備と環境が与えられ、反対に、学力の低い敗者にはまともな学校生活も危ぶまれるような教室があてがわれるのだ。
「知ってはいたけど……これは酷いな」
2ーFの教室に辿り着いた千秋は、目の前に広がる光景に肩を落とした。
机と椅子の代わりに並んでいるのは、年期の入った卓袱台と硬そうな座布団。
床はフローリングではなく畳で、しかも辺りに仄かに香るのは、藺草ではなく埃と黴の臭い。不快だ。
学生が勉学に励む場としては実に斬新な設備といえるだろう。
高級ホテルのロビーのようなAクラスの教室と比べると、その差はまさに月とスッポンだ。

「おぉ、千秋!おはようじゃ」
「秀吉!」

千秋が入り口で呆然と立ち尽くしていると、独特な口調の、しかし酷く可愛らしい声がした。
教室の奥の方を見ると、男子制服を着た小柄な栗毛の生徒が手を振っている。
「おはよう、秀吉」
「またお主と同じクラスとは嬉しいのう。今年もよろしく頼むぞい」
「おう。こちらこそよろしくな」
千秋を笑顔で迎えてくれた彼は、1年の頃もクラスメイトだった木下秀吉。
その可愛さはたとえ男子制服を着ていても、うっかり女子と間違えてしまいそうな程だ。
自分と秀吉が横に並んでその性別を問えば、知らない者ならまず間違いなく逆を答えるだろう。
千秋の従兄妹なんて、神様は間違えて千秋と秀吉の性別を逆にしてしまったんだ、と言うぐらいだ。

「土屋も、おはよ」
「…………おはよう」

秀吉の後ろの席には、彼と同じく1年の頃からの友人である青色の髪をした少年の姿があった。
「今年もよろしくな」
「…………ああ」
コクリ、と千秋の言葉に口数少なく頷く彼の名前は、土屋康太。
秀吉と違って千秋よりも背は高いが、男の中では小柄な部類に入るだろう。
おっとりとした口調で、ぱっと見目立たずおとなしそうな彼だが、実はとても俊敏で運動神経が良い。
その類稀なる能力は、彼自身の存在よりもこの学園に広く知れ渡っている。まぁ、それが良いか悪いかと聞かれると微妙なところだが。
「担任の先生は?」
「まだ来ておらん。遅れておるようじゃの」
「ふぅん……」
相槌を打ちながら、千秋は周囲を見回す。
流石は最低クラス。知っている顔もちらほらいるが、見渡す限り男ばかりだ。
そういえば、自分の席はどこだろう?
「…………席は特に決まっていない」
「そうなのか?」
「うむ。皆好きなように座っているようじゃ」
「んじゃ、隣いいか?」
「…………俺は別に構わない」
秀吉の両隣はすでに埋まっているようだった(このむさ苦しい中で数少ない癒しなのだから当然だろう)ので、土屋の隣に座ることにする。と、

「すいません、ちょっと遅れちゃいましたっ♪」
「早く座れ、このウジ虫野郎」

ガラリ、と先程千秋が閉めたドアが勢いよく開くと、酷く見覚えのある顔の少年が姿を現し、無駄に愛嬌たっぷりに挨拶してきた。
その挨拶を容赦なく切り捨てたのは、これまた千秋の良く知っている赤い短髪の少年だった。
「聞こえないのか?あぁ?」
教師でもないのに何故か教壇に立っている彼は、180センチ強はありそうな長身で、体はボクサーのように程良く引き締まっている。
その野性味溢れる顔で睨みつけられれば、気弱な者は尻尾を巻いて逃げだすだろう。
だが、一見ひ弱そうな茶髪の少年は、教壇に立つ彼を負けじと睨み返していた。
「雄二に明久までFクラスかよ……」
「ちなみに、雄二がこのクラスの代表じゃぞ」
「…………つまりFクラスの最高成績者」
「マジか……」
教壇に立つFクラスの最高成績者、坂本雄二と、仲間内ではおバカなことで有名な我が従兄妹、吉井明久の姿に、思わず溜息を吐く。
「1年でつるんでいた者皆が揃って嬉しいのう」
「そりゃあまぁ、このメンツなら退屈はしないだろうけど……これってもしかして」
「…………類は友を呼ぶ」
「だよなぁ。やっぱり」


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