第9問


  
「やれる、僕なら殺れる……!」
「やるなっての」
中堅部隊は18人中14人が戦死という悲惨な結果に終わったものの、雄二たちの本隊から救援もあり、なんとか持ちこたえることができたらしい。
その中で運よく生き残り、化学のテストを受けて点数を回復した明久は、先刻の放送をした生徒に対する殺意に燃えているようだった。
「ちなみに、だが。

 あの放送を指示したのは俺だ」
「シャァァァアッ!」

きらりと刃が煌めき、ブラックジャックが踊る。
テンポよくコントをかましている明久と雄二は放っておくことにして、千秋は教室の卓袱台に向き直った。
「あ、あの……吉井君たちはいいんですか?」
「あー、いいのいいの。いつものことだから。
 しっかし、よくもまぁこんなに……」
「うむ……伝令と戦況報告の他に、調査もしていると聞いてはおったが……」
「本当、すっごい数ね……」
「…………それほどでもない」
「一応言っとくけど、褒めてないからな」
「…………!!?」
一生懸命頑張ったのに酷い!なんて顔されても、正直反応に困るのだが。
卓袱台一面に広げられた無数の盗撮写真を見回して、千秋は溜息を吐いた。
「ま、まぁまぁ……土屋君も、作戦の為にしたことですし」
見かねて優しい瑞希がフォローを入れる。
確かにここにある写真は、今の戦争相手であるDクラスの生徒たちのもの。
放課後の下校ラッシュの混雑に乗じてDクラスの生徒を取り囲んで討ち取る、というのがこれからの作戦だが、それを実行するには、まず敵の顔を知っておく必要がある。
だから雄二は土屋にDクラス全員の顔写真を用意するよう指示し、彼はこの短い時間でその任務を見事完遂してみせた―――というのは、半分正解で半分間違いだ。

「土屋。作戦の為にしては、男女で随分写真の完成度が違う気がするんだけど?」
「…………そんなことはない」

「確かに、男子の写真は女子に比べて全体的に適当な感じじゃ」
「…………そんな、ことはない」
「それにこれ、良く見たら女子の写真だけ季節バラバラじゃない。
 そっちは雪降ってるし、この写真は半袖よ」
「…………そんな、こと、は……」
「土屋君……」
「…………ち、ちが―――」

「あ、船越先生」
ドタバタッ!?ダダダダダダダッ、ガチャッ、バンッ!!!

「さて、馬鹿は放っておいて、そろそろ決着をつけるか」
土屋を追いつめたところで、タイミング悪く雄二がこちらにやってくる。
人生を売られて発狂していた明久は、彼の魔法の呪文で掃除道具入れの中に引きこもってしまったようだ。
「そ、そうじゃな。
 ちらほらと下校しておる生徒の姿も見え始めたし、頃合いじゃろう」
「…………(コクコク)」
「チッ」
「……。おい、なんか約一名、すげぇ不満そうな顔をしてる奴がいるんだが」
「別に?楽しく遊んでるところに邪魔が入ったのが、ちょっと不満なだけだよ」
「やっぱ不満なんじゃねぇか!」
「…………いや。雄二、ナイスタイミング」
「「「……」」」
「はぁ……何馬鹿やってたんだお前等は」
緊張感のない千秋たちに、雄二は溜息を吐く。
だが、すぐにその顔を引き締めると、深く息を吸い込んだ。
そして、Fクラスの同胞たちを見回して、大きく声を張り上げる。

「遊びはもう終わりだ!
 テメェら、Dクラス代表の首級を穫りに行くぞ!!」
『おうっ!!』

雄二の声を合図に、仲間たちが勢いよく教室を飛び出していく。
その足取りに迷いはない。敵の顔を判別できない相手クラスと違い、彼らはそれぞれ標的がしっかりと決まっているからだ。
「あれ?吉井さん、行かないんですか?」
「んー。もうちょっとしたら行くよ」
「?」
不思議そうに首を傾げる瑞希に、千秋は笑う。
最終兵器である彼女は、Dクラス代表がいる本隊が出てくるまで、教室で待機することになっている。千秋と瑞希以外で教室にまだ姿が残っているのは、代表である雄二ぐらいだ。
(馬鹿やってんのは、どっちなんだか)
まぁ、物凄く楽しいのは分かるけれど。
ちらり、と雄二に視線をやると、彼は肩を竦めてニヤリと笑う。

「あー、明久。
 船越先生が来たっていうのは嘘だ」
「雄二ぃぃぃいいいいっっ!!!」

金属製の扉が蹴り開けられる音と、瑞希の可愛らしい小さな悲鳴をBGMに、千秋と雄二は駆け出すのだった。
 


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