籠屋短編 | ナノ

昔日



 夏の日、買い出しの帰り道のこと。

「はあ、(橋の下は)涼しげでよいですね」
「帰ったら桶に水張って足突っ込んだらいいよ」
「なにそれ宵ノ進がやってるとこ見てみたい」

 悩ましげに首をかしげる宵ノ進と、日傘の下で至極いやそうに言い放った大瑠璃と、真顔で突っ込んだ羽鶴とで、等分した荷物を持ちながら覗く、橋の下を流れる川。
 ああ涼しげだ、再度呟いた宵ノ進の落ち着き払った声にそちらの方が涼しげなのではと首を向けるとどうしましたとやんわり笑われる。

「隙がないな」
「外出しておりますし、気は配りますが」
「うーんそれを含めて普段か」
「鶴はいつも自然体だよね」
「お前も自然体でいいんだぞ大瑠璃」
「その喧嘩買った」
「あら羽鶴様も大瑠璃も、暑気に参ってしまわれたようで。わたくし桶なら借りてきますけれど」

 目先の店を視線の先に置きながら、ふんわりと笑う宵ノ進を直訳するとこうだ。
『この暑さの中出先で喧嘩は勝手だが川の水をぶっかけるぞ』、だ。

「僕と大瑠璃はとても仲良しです」
「宵帰ったら氷菓作って」
「氷菓でしたら香炉と作ったものがあります。皆でいただきましょう」

 ゆるゆると三人で歩く帰り道、籠屋に近づくにつれ朝日が飾った大量の風鈴がそれぞれ風に煽られ不思議な音色を響かせていた。




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