モノクロハート | ナノ

人形師


 その瞳は熟れた葡萄色をして、ただ向けられたものだったが白い警官は気付く。
 あれは頑丈に幾重にも感情を貼り合わせ本心を見せない者の眼だ。
 ふわふわした金髪が柔らかな雰囲気を引っ張り出そうが、葡萄色の目の奥は冷えきっている。

「君たち、署長さんに言われてぼくを止めに来たんでしょ。はい手錠、繋いでごらんよ、きっと楽しいよ」


 湯舟の中から両手を伸ばした男の華奢な手首には真っ赤に濡れた手錠がぶら下がっている。
 にこやかに誘う男は人差し指で宙に赤い文字を書いた。


「“本日の献立 少女のマリネ”」


「冗談はよせ。ハリフォード・ランス」
「ぼくの願い事を叶えてくれたら、おとなしくしているよ。それに冗談ではないよ。さあ、召し上がれ」
「ねぇえええシグナル!! お皿の上グロテスクなんだけど!! クッキーの上からダイレクトにかけちゃってるんだけど!!」
「服を引っ張らないでくださいよ先輩。新たな被害者が夢の中でソースにされただけでしょう。あのバスタブの中身だってミス・ローマイヤでしょうし」
「シグナル!! お前ちょっと黙ってろっ!!」
「何で涙目なんですか先輩」
「いいからっ!」


 黒い警官を押し退け、白い警官は前へ出る。


「俺はセレウス。署長に面倒見てもらってる警官だ。正直お前は怖いし、この夢想世界で勝てるやつはいない。そこでだ、ハリフォード・ランス。お前の願い事を叶える」
「なんでも?」
「ああ、なんでもだ」


 葡萄色の眼が煌めいた。


「ぼくの願い事は三つ。一つはぼくの創った人形達が今どうしているのかを知ること。二つ目はぼくの人形をひどい目にあわせた犯人をここへ連れてきてほしいこと。三つ目は犯人をどうしようが黙って見ていること。他にはなんにもいらない」

「その三つを叶えたら、今度はお前が俺たちの願いを三つきいてくれないか。貸し借りナシってことで」
「いいよ。叶えてくれたらね」




 笑って視線を外した男、ハリフォードは硝子の人形が運んできた紅茶をバスタブに浸かりながら味わった。
 以後訪問者などいないように振る舞う彼は、これ以上話をする気はないようだ。



「先輩、人形何体あるか知ってるんですか」
「知らんが叶えないと被害者が増えてくだろ。付き合って、お願い!」
「舌出さないでくださいよ二人一組での行動なんですから頼み込むのは筋違いです」
「うわぁあ優しいシグナル!! 抱擁しちゃう!!」
「舌引っこ抜くぞ童貞」



 喚く二人の前に真っ黒なドアが空から降ってきては開き、中に貼られた大量の紙に同時に目を見開く。
 赤い文字で“騒がしい煩い帰ればらすぞ”等と書かれた紙が雪崩のように二人にのしかかり、黒いドアが閉じると静かに紅茶を飲むハリフォードだけが残った。




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