籠屋本編 | ナノ

三.菊花百景
127.



 ぷかぷか、ふわり。逆さにした木箱に腰を下ろした白い着流しに白い長髪、これまた白く大きな耳をぴょんと揺らしながら七色に輝く球体を吹き遊ぶ店主は来客の姿に大きな青紫の瞳をぱちくりと瞬かせた。

「銀次ちゃんおひさー!」
「おやぁ朝日ちゃんいらっしゃい。板前さんも珍しい。おや、はじめましてかのぉ、ゆっくりしてってくりゃれ」
「御無沙汰しております」
「は、はじめまして僕は羽鶴と言います籠屋で雑用してます」

 銀次はシャボン玉をぷかぁと吹くと、

「わしは銀次じゃよ〜。ここは貸衣装屋での。お化粧品とかもあるんじゃよ〜」

 とにこにこと白い耳をぴょこぴょこ動かした。

 中へ入れば煌びやかな衣装や小物が店中にぎっしり詰まっており宝箱に入ったような感覚なのだと朝日は言う。綺麗に分けられた化粧品やお香、装身具をキラキラした眼で見ながら朝日が紙で編まれた極彩色の籠にあれこれ放り込んでゆく。大切に大切に、小さな宝箱を作っていく朝日の横で宵ノ進はお香の包みを気にしており、鼻先に持っていくとほう、と落ち着いた表情を見せた。

「こちらを頂いても宜しいでしょうか。羽鶴様、何か気になる品がございましたら仰ってくださいまし。わたくしの品と一緒に致しますゆえ」
「ええよ〜ほんに板前さん香り袋が好きじゃのお。ふふふ。朝日ちゃんは夢中じゃのお。嬉しゅう嬉しゅう。羽鶴くん、よかったのお、板前さん好きなの買うてくれるて」
「え!? いいの宵ノ進……!? じ、じゃあ甘えちゃおうかな……ええと……」

 わりと狭い店内だが、品数が多すぎて目移りする。羽鶴は半ば勢いできらきらした小瓶を指差した。

「じゃあこ、これ……!」
「ほぉ〜香水じゃの〜。ええのぉ〜」
「中身入ってたァ!」
「あらまぁ、良い香り……」
「花の秘密で花密じゃの〜。歌密もあるんじゃよ〜。好きなの選べるようにたくさん集めたらほんにたくさん集まってのお。おや朝日ちゃん、そんなにたくさんいいのかえ?」
「いいのー! 朝日は機嫌も良いの!」

 籠いっぱいに化粧品やら小包やらアクセサリーやらを詰め込んだ朝日は晴れやかな笑顔で銀次に代金を渡している。ちらりと金額の見えた羽鶴はぎょっとしたのだが、何も見なかった事としながらそういえば自分の分はいくらしたのだろうと急にそわそわしたが会計などとうに済まされているので聞くに聞けない。おそるおそる手書きの洒落た値札を覗いてみると良いお値段で羽鶴はそっと香水を片手で包んだ。

「銀次ちゃんいつもありがとう! 朝日また来るね!」
「いつでも待っとるよ〜。そうじゃ折り紙おまけしとくの。昨日仕入れたんじゃよ〜」
「やったー! 折り紙! 銀次ちゃん大好き!」
「んふふ。喜んでもらうと嬉しいのお。みんなありがとうのお。また来てくりゃれ」





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