籠屋本編 | ナノ

三.菊花百景
119.



 鉄二郎の元へ引き寄せ刀の片割れを倒すべく集めた心当たりの一人が突如呻き声を上げながら両眼から血を流し失明したとの事だった。何の前触れもなく、直前まで作戦を練っていたという。

「言ったでしょう、私ができるのは守ってあげることくらいなのだって。引き寄せ刀は本当は外野が手を出してはいけないの。何度も言ったわ。聞き入れてはもらえなかったけれどね。会話の時点でだめなのよ。以前はそんなことなかったのだけれど、あの子らは何かに触れたのだわ。もしくは見てしまった。反撃なんてなかったの。誰も敵意を込めて触れなかったからよ。それに、あの子がそうしていた。他に眼を向けないようにしていたのに。知ったら傷付くわね」
「伏せときまーす!」
「朝日軽い……そんな、店長……どうしたら……」
「心配なら側にいてもいいけれど、結局はあの子らに任せるしかないのを忘れないで頂戴」

 大瑠璃が言っていたのを思い出す、今度こそけりをつけるからと。
 もどかしい。何もできないのは嫌だ、……ただの我儘なのだろうか。

「気が済んでなくても寝るぞ鶴ちゃん! お肌によろしくなくてよ!」
「ううう」
「ちょっと虎雄いる? 何で二人がいるわけ? 寝たら?」
「大瑠璃辛辣すぎない?」
「寝れなかったくせにぃ〜!」
「朝日覚えておいでよ」
「あのう虎雄様は起きてらっしゃいますか……? 悪夢ばかりで眠れぬのですが香を……あら朝日に羽鶴様、大瑠璃まで……」
「賑やかだこと」
「ちょっと二人とも話が」
「鶴の話が面倒そうだから聞かなくていいよ宵、代わりに朝日が聞いておくって」
「え〜朝日ちゃんも面倒な話はヤだな!」
「何で僕めんどくさい扱いになってる?」
「あーはいはい、みんなよく眠れるお香をあげるから部屋に戻って焚いて寝なさい」

 虎雄が全員にちんまりとした花の小包を寄越すので、それぞれに受け取ると包みから心地の良い香りが仄かに香る。

「僕釈然としないんだけど」
「寝たら? 自分が満足してないだけでしょ」
「おおっとここで機嫌のよろしくない大瑠璃の攻撃!」
「朝日も寝ろ」
「それではおやすみなさいまし、虎雄様、有難うございます」
「え! ええー、早ァ! もういない!」
「いい時間なのよォ? ほら寝た寝た、私は明日なら一日中籠屋にいるから」
「わかった、騒がしいから寝るわ。おやすみ」
「あ、待って大瑠璃……!」
「何」
「僕も途中まで一緒に行く……!」
「怖がりか」
「朝日ちゃんは〜! 虎雄様と寝る〜!」
「はいはいいいからみんなおやすみね。また明日」




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