■いつでもあなたにまもられている


 いつも見ていた背中は、現代に戻ってきてからも花梨の目の前にあった。

 「…へへっ」
 「花梨殿?」

 頼忠はそっと自分の斜め後ろに下がった花梨を振り返る。「あ、頼忠さんそのまま歩いて」一人で微笑っていた花梨は振り返った頼忠を制し背中を押して前を向かせる。そんな花梨の行動を訝しげに思いつつも、愛しい相手の頼み事とあっては聞かないわけにはいかず、促されるまま前を向いて歩く。

 やはり頼忠の後ろを楽しげに歩く花梨に、頼忠は歩きながら半顔で振り向く。

 「花梨殿? 私の背中に何かついてますでしょうか」
 「ううん、別に何にも?」
 「では花梨殿は何を見られてそんなに楽しげにされてらっしゃるのでしょうか」
 「頼忠さんの背中だよ」
 「…何の変哲もないただの背中ですが」
 「そんなことないよ。広くて、おっきくて、いつも私を守ってくれてた、私の大好きな背中だよ」

 花梨は頬を赤らめてふふ、と微笑む。頼忠は花梨の物言いに面食らったようで俄かに目を丸くする。

 元武士の、一瞬だけ見せたその隙をついて、花梨は「えいっ」と頼忠の背中に抱き着いた。

 「か、花梨殿」いくら人気があまりない通りを歩いているとは言え頼忠は狼狽える。しかし花梨はぎゅ、と頼忠の腰から前に回した腕に力を込めて頬を背中に押し付けた。頼忠愛用のロングコートは彼の匂いが深く染み込んでいる。

 「私ね」と花梨は背中越しに頼忠の赤みが奔った顔を見上げる。

 「あっちの世界に居たときからこうして頼忠さんの背中に抱きついてみたかったんです。ずっとこの背中に守られてきたから、頼忠さんの背中ってどんな感じなんだろう、抱きついたらどんな風なのかなって気になってて」
 「…それで、実際抱き着かれてみて如何でしたでしょうか」
 「大きくて広いのは見たまんまだけど、想像してたよりすっごくあったかいです」

 花梨は微笑んで頼忠の背中に頬をすり寄せる。コート越しなのに触れ合った場所が暖かい。ああこの温もりが私を守ってくれていたんだな、と花梨は思った。

 「…それはとても有り難い御言葉なのですが」頼忠は一度視線を宙に彷徨わせた。しかしふと微笑むと腰に回った花梨の腕をそっと解く。
 頼忠の背中から離された花梨は、半身で振り返った頼忠を見上げて首を傾げる。

 頼忠はボタンを留めないで寛がせていたコートの前半分を花梨に向かって少し広げた。

 「私としては、ここに来て下さった方が嬉しいのですが?」

 空いているのは頼忠のコートの中――腕の中である。

 きょとん、と花梨は目を瞬かせたが、やがて照れくさそうに、しかし嬉しそうに破顔し、広げられたコートの中へ飛び込み頼忠へ抱き着いた。花梨の小さな体は、頼忠の大きな腕の中にすっぽりと収まる。背中よりも暖かい腕の中で花梨は目を細める。

 ふわりと花梨の体ごとコートで包み込んだ頼忠は満足そうに微笑み、花梨の腰を抱いて歩き出す。今はその腕の中で自分を守ってくれる頼忠に花梨ははにかみながら、心の中で「大好きです頼忠さん」と囁いた。

 きっと、二人だけの部屋へ帰ったら彼の耳朶に直接囁くのだろうけど。






〜終〜






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は、恥ずかしいなをい…!(自分で書いて照れるな)
頼忠現代EDのスチルは一体どこの国の遊園地ですかってくらい日本っぽさがないのですが(笑)、でもそれがロマンチックでいいんだと私は思います( ̄▽ ̄〃) あの頼忠のロングコートは反則だと思うのでその気持ちをこのSSに込めてみました(笑)



H21.11.10



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