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*パラレルです
那岐*千尋(影武者*王)


千尋は王族の子、僕は君の影武者、それが己の生まれた宿命


「那岐」
「どうしたの、千尋」


何時もの様に始まった朝
那岐は執務室に続く回廊を歩いていた
トンッと後ろから抱きついて来た少女が那岐の名を呼ぶ


「何処に行ったのかなと思って」
「今から執務の時間だろ」
「うん、それは分かってる」
「ならどうしてさ」
「那岐が消えちゃう夢を見たの……」


そのままの格好で、那岐は腹の前で固く結ばれた腕に自分の手を伸ばす
今にも震えてしまいそうな身体を少し離して、真正面から向き合う
安心させるように自分の額と千尋の額をくっ付く合わせる


「千尋。大丈夫だから、僕はここに居る。」
「分かってるんだけどね、夢の中は凄く……」
「そんな何時来るか分からない明日より、今考えなよね」


それは何時か自分のみ身に降りかかる影武者としての使命
その千尋の言う明日が何時来るかなんて分からない
そんな明日なんて来なければ良いと思う、だけど何時かきっと来るんだと思う


「そうだね。ごめんね、那岐」
「元気になったなら良いよ、別に」


少しだけ笑顔になった千尋に、那岐も笑みを零す
ポンポンと千尋の頭を撫でてやる


「那岐…居なくならないでね……」
「居なくならないよ」
「本当に?」
「誓ってあげるよ、本当だって」
「誓う…?」


頭を撫でるだけで何時もは元気になるのに、今日は少しだけ違うらしい
那岐の服を握り締めて不安げに揺れる瞳


「僕は千尋に忠誠を誓った、その誓いを違えることはしないよ。絶対に、千尋の隣に戻ってくるから」


安心させる為に那岐は半分の本当と、半分の嘘を混ぜて千尋を安心させる
影武者の存在に帰る場所など無いと知っている。
隣の戻って来られるかなんて分からない、だけど戻って来たい


「約束だよ、那岐。私の隣に戻ってくるって、居てくれるって、私を…っ」
「それ以上は言っちゃ駄目だよ。」
「那岐…私は…」
「駄目だよ。でも分かってるから、大丈夫」


それ以上の言葉は要らないんだよ、思ってくれているだけで…本当に嬉しいんだから
言わなくて良いよ、その想いは何時か叶わなくなるかも知れないから
だから想っているだけで良いよ、言葉にしなくても伝わっているから


「千尋、目…閉じて」
「?うん」
「絶対に約束する」


千尋の額に愛情を込めて、音にして紡ぐ事はできないからこれで分かって
戻れなくても良い、今ここに居られるなら。
それだけで良い、何時か変わる時が来るから、それまで隣に居させて


「執務に遅れるよ、急ごうか」
「那岐」
「なに、千尋」
「手…繋いで欲しいな、駄目?」
「…扉の前までだよ」


振り向いた那岐を呼び止めて、千尋が聞く
少しだけなら良いかな、手を繋いで先に見える扉まで後もう少し


(言えない代わりに、傍に居る事だけしか出来ない。)


君は温かな日差しの中で歩いて、僕は陽ざしの届かない日向を歩く
温かなところで笑っていて、泣かないでそこに居て
大好きな愛しい人


(変わらずそこで、光り続けていて)


紡げない想い
音には紡げない想いを、隣に居る事で伝わって伝えられたら良い。ただそれだけで良い。


(那岐。何処にも行かないで、傍に居て)
(居るよ。心配性だね千尋は……)




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パラレルすいません。
那岐は幼少期から一緒で千尋の影武者。何時果てるとも知れない那岐と想いを伝えたい千尋…なんだかこうして書かないと伝わらない気が…。

企画参加させて頂き有難うございます。



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