フワリ、フワリ

少しの風に乗って、香るのは大好きな人の香り
近くに居れば居るほどその香りは鮮明に


「うーん…」
「どうかしたのですか?花梨さん」


背中合わせで座るこの位置から花梨の顔が見れない、花梨からも彰紋の顔は見えない
問いかければ少しの間を置いて背中から温もりが引いていく


「こ、こっち見ちゃ駄目!……そのままでお願い」
「はい、分かりました」


離れていった温もりを掴もうと振り向こうとした彰紋を、花梨は慌てて止めた
彰紋は少しだけそれを不満に思いながらも、それを知られないように優しく返事をした
花梨は作りかけのこれを……今見られるわけにはいかないから、その返答にゆっくり息を吐き出した


「…それで、どうされたのですか?」
「どうしたら良いかな…と思ってたの」
「どう…とは一体何の事なんですか?」
「そ、れはね…えっと」


花梨の言われたと通りにこちらを見る事無く、キョトンと首を傾けて彰紋が聞く
当の花梨は彰紋の背中をチラッと見ながら答える
けれどその言葉はしどろもどろになり、言葉としての意味を果たす前に落ちていく


「花梨さん」


優しく名を呼ぶ、少しずつで良いから言って欲しい


「目をね…閉じて欲しいの。」
「他にはありませんか」
「両手をね、膝の上に出して置いてて欲しいな。良いよって言うまで目を開けないでね」
「はい。」


花梨に言われるまま目を閉じて、両手を膝の上に置く
少し近づいたのか彼女の香りが風に乗ってここまで香るその瞬間に、ポトンと手に何かが置かれた
手の上に置かれたものを気にしながら、花梨の声が聞えるまで待つ


「目を開けても良いよ、彰紋くん」


聞えた声に目を開けて、早速手に置かれたものを見る
目の前に花梨が居ないから後ろを振り向こうかどうかで悩む


「香袋、有難うございます。花梨さん」
「何時ものお礼だよ。」


結局振り向くのはやめて、背を向けたままお礼の言葉を


「ですが、何故香袋なんですか?」
「………」
「花梨さん?」


花梨さんからの贈り物は初めてで凄く嬉しい、でも何故香袋なのか気になるから本人に聞いてみる、黙ってしまった花梨を呼んで
少しの間を置いてポツリと独り言のように零す


「…移らないかなって、私の香りが少しでも移ったら良いのにって思ったの」


貴女は何時も僕の考えを越える言葉をくれる
その言葉に彰紋は振り向いて花梨に腕を伸ばす


「彰紋くん?」


抱き込まれた花梨は、突き放す事をしたくなくて名を呼ぶ


「こうしたら、お互いの香りが移りますね」
「そうだね。こっちの方が早いね」
「そうでしょう。でしたら、こうしていましょう」


花梨の首筋に顔を埋めて、耳元でただ一人の少女に聞えるだけの声で囁く
擽ったそうに身を捩る花梨だけど、彰紋の提案に素直に頷く


「花梨さん、愛しています」
「うん。」
「…花梨さんは?」
「言わなきゃ…駄目?」


紡いで、貴女の声で
フワリと花梨の香りが届いて、耳元で微かな声が聞える


「好き」
「はい。」


宙に彷徨わせていた腕を彰紋の背中に回す
花梨の香りが少年に移るように、彰紋の香りが少女に移るように。そのまま優しく抱き合う、お互いの香りが移るまで



(今更ながらに…恥ずかしくなってきた…)
(放してなんてあげませんよ、花梨さん)


フワリと香る
香袋は二人の間でその香りをフワリと漂わせて、新しい香りを漂わせる




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…香袋の話が何処にも活かせていないと言う。お互いの香りが移るまで抱き合っていれば良いと思う残念な結果。彰紋と花梨への愛は十分に込めました!この二人が本当に大好きです!

そして、素敵企画へ参加させて頂いて有難うございました!



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